真夜中の散歩

弥生

真夜中の散歩

 ある満月の夜、真夜中に散歩をしていると、極稀に変なことに巻き込まれる事がある。

「……なんか、やたらと毛が落ちているんだけど」

 街頭に照らされた部分にもふ、もここっと鉛色に光る毛が所々に散らばっていた。

 これは、毛が生え変わる時期のわんちゃんの毛玉かな?

 それをたどっていくと、一瞬あまりにも白い棒のような物が落ちていた。

「ほねっこ……? いやいや、歯周病予防のわんちゃん用のガムに近いけど……」

 さらにそれを追っていくと……。

「これは、なかなかに良さそうな棒」

 凄いな。うちのわんちゃんとか見たら喜びそうな噛みやすそうな棒だ。


 今日は不思議な物が色々落ちているなぁとたどっていくと、今度はなにやら白い長細い布にカラフルにデザインされた紙、そしてスプレータイプの液体が入ったビンが落ちていた。


 ふむ。真夜中の推理も悪くない。


「恐らくこの遺留品から、わんちゃんの散歩中にわんちゃんが逃げちゃって、慌てて追いかけたら鞄から物が落ちちゃったパターンかな。消臭剤も入っているみたいだし! とりあえず全部拾ったけど、追いかけてみよう!」


 広間のような所々で喧騒が聞こえてくる。


「さぁ、観念するのですクリーチャーどもよ! この私が来たからにはすべての魔を払いましょう!!」

「ガルルルっいけ好かねぇ神父め! 月夜の狼男が勝負だ!」

「はーっはっはっこの醜い者たちよ、古のヴァンパイアのわたくしがお相手いたしましょう!」

「待ちなさい! 死霊使いの私が呼び覚ましたミイラと骸骨の群れに太刀打ちできるとお思いか!」

「死霊使い! お前の相手はキョンシー使いの私が相手だ!」

「神父様! 聖女なる私が聖水を使って助太刀いたしましょう!!」


 ぽかんと口を開ける。

 え、な……何この状況??


 道に落ちてたのがええと……。

 狼男の毛玉に骸骨の骨に木の杭にミイラの包帯にキョンシーの御札にスプレー型の聖水?

 情報が過多過ぎるのでは?


 ひとまず全員の影を踏み、威圧を掛ける。満月の夜でよかった~。

「こ、この気配は……始祖様……!?」

 あー、あそこで黒マント厨二病満載なのは孫血の眷族かな? 後で親にちくっておこ~。

「令和の世に何をしてるんだよ。ご近所迷惑だろ? ほら散った散った。人様に迷惑かけないように」

 古き血と言うだけはあって、ある程度力だけはある。

「僕の真夜中の散歩を邪魔しないでくれないかな?」

 パンっと手を叩けば、それぞれの領域に飛ばせたみたいだ。

 

 真夜中の散歩は極稀に変なことに巻き込まれる事がある。

 それが面白いこともあるんだけどね。

 

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真夜中の散歩 弥生 @chikira

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