第64話 恋人のことを全て理解しているのなんて、海外では普通ですよ?

「というわけで望宮さん、勝負の審判は、望宮さん本人に下していただきたいと思います」


「待ってくれ、いきなりそんなことを言われても困る」


 どっちが俺のことをより深く理解してるかって…


「いきなりだからこそ意味があるのです、より練られた問題ではなく、望宮さんの直感で出された望宮さんからの問題に正確に回答できた方が、より望宮さんのことを深く理解しているという証になります」


「俺が問題を考えるのか!?」


「当たり前でしょ、望宮のことを一番知ってるのは望宮なんだから」


 もちろんそれはそうなんだが…問題って、この二人は確かに俺と最近常に接してはいるが、だからって俺のことをより深く知っているかどうかの問題になんて答えられるほどはまだ俺のことを知らないはずだ。


「私は望宮さん以上に望宮さんの可愛いところを知っていますが、今までの望宮さんの経験というのであれば望宮さん本人の方がお詳しいと思うので、やはり望宮さん自身に問題を出していただくのがよろしいかと思います」


 …でもそれを言って引いてくれる二人で無いことはこの約二ヶ月でわかっているし、ここは素直に問題を出して引いてもらう形にしよう。


「…わかった、例えばどんな問題が良いんだ?」


「望宮さんの好きな食べ物や望宮さんのテストの平均点数など、本当にどのようなことでも構いません」


「じゃあ、試しに俺が好きな季節とかは?」


 俺の好きな季節は、ソフィアにはもちろんアリスにすらまだ伝えていない。

 最初から難易度の高い問題を出して申し訳ないが、そもそもこんな勝負をするにはまだ早い、ということをわかってもらおうと思ったんだが。


「冬です」


「どうして知ってるんだ!?言ったことあったか…?」


「望宮さんの好きな季節など、知っていなくてどうするのですか、しっかりと望宮さんが楽しめるよう冬のデートプランもたくさん考えてあります」


 まだ夏にすら入っていないのにもう冬までの計画を立てているのか…


「…じゃあ、次は俺の好きな時間帯は?」


「昼でしょ」


 もし今度も答えられるならアリスだと思ったが、何故かソフィアが即答した。


「ソフィア!?どうして俺の好きな時間帯が昼だと…?」


 俺はソフィアの言う通り昼が好きだ…だがもちろんソフィアにそんなことは伝えていない、何故わかったんだ?


「望宮って寝起き弱そうだし、夜は苦手そうな感じあるでしょ、だから消去法」


「別に寝起きは弱くない」


「望宮さんの起床時のことは鮮明に覚えています、最初に『ん…』という可愛いお声から始まり次に────」


「待て待て、そんなこと覚えてなくていい!」


 どうしてそんなことをいちいち覚えているんだ…アリスの記憶力はこういう時厄介だ。


「起床時って…何?」


 俺とアリスが一緒に一晩同じ屋根の下で眠ったことを知らないソフィアが、疑問を持っているようだった。


「私と望宮さんは、お泊まりしているのです」


「お泊まり…!?」


「それも、出会って間もない間に」


「…そうなんだ、でもアリスは今回望宮の好きな時間帯は答えられなかったわけだし、この問題は私の勝ちね」


「はい、どうぞ…ですが私が答えなかったのは、今の望宮さんと将来の望宮さん、どちらの望宮さんの好きな時間帯を答えようかと悩んでいたからです」


 …今の俺と、将来の俺?


「どういうことだ?」


「もちろん、今望宮さんが好きな時間帯がお昼だということは承知していました…が、そう遠くない将来、望宮さんは夜が好きになります」


「どうして?」


「私が必ずそうして差し上げます」


 …よくわからないが聞いてもあまり良い答えは返ってこなさそうだし、スルーしておこう。


「次の問題だ、俺の好きな動物は?」


「犬です」


「犬」


「…このことも俺は言ってないはず、だよな?言ってないのにここまでわかられてるのはすごいを通り越して恐怖なんだが」


「恋人のことを全て理解しているのなんて、?」


「狙ってる人のことを全部理解するのなんて、


 …本当に、こんなところで息を合わせるぐらいならもっと他のところで息を合わせて欲しいと、俺はただただ願うしかない。

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