第63話 勝負に負けた方が命令を一つ聞くのなんて、海外では普通ですよね?

「アリス!今日こそアリスに勝って見せるから覚悟しなさい!」


 望宮さんとたくさんイチャついた日の次の週の休日。

 ソフィアが私の家に来ていつものように勝負を申し出てきた。


「ソフィア…?どうして私の家の場所を?」


「そんなこと?アリスのお母さんに聞いただけ」


 …お母様の口止めをしておくのを忘れるなんて、私史上でも指折りの不覚。


「ソフィア、その言葉は今まで何百回と聞いてきましたが、その言葉を私に告げてから一度でも私に勝利したことがありましたか?」


「今日がその記念すべき一回目になるって言ってるの」


「ソフィア?私たちはいつまでも子供ではありません、私には望宮さんという恋人もできましたし、今後私は望宮さんとの将来を────」


「逃げるんだ?じゃあ次学校の日にでもアリスが私に負けるのが怖くて私との勝負から逃げたって望宮に教えてあげよ〜っと」


「なっ…!」


 そのような情けないこと、望宮さんの耳に入れば私の印象が少なからず悪くなってしまう可能性が…そうで無くとも、私がソフィアから逃げたなどと望宮さんに吹聴されるのは最悪な気分に…


「望宮さんを餌のように扱うとは、卑怯ですよ」


「アリスが絶対に釣れる餌を知ってるのにそれを使わない方が釣る側としてはおかしいでしょ」


「…それで、勝負の内容は?」


「どっちが望宮のことをより深く理解してるかって勝負」


「…はい?」


 ソフィアは…何を?

 私に望宮さんのことについての理解度で勝負を挑む…?

 …今までの数々の勝負、勉学、運動、音楽や料理など、さまざまなことで競ってきて、そのほとんどが僅差での勝利だったということは私も認めるところ…

 でも、まさか望宮さんの理解度で私に勝負を挑むとは。


「あなたがその勝負で私に勝てる道理が全くありません」


「どうかな?私だって望宮と身近で接してるし、アリスとは違って客観的に望宮のことを────」


「あなたが望宮さんのことを知っているようなことを言わないでください、あなたの知っていることなんて、望宮さんのほんの一部に過ぎません、望宮さんは恋人である私にしか見せない顔がたくさんあります」


「へぇ…例えば?」


「それはもう、映画を見ながらうとうとしている姿や、少し勉強などで疲れている時は私に甘えたいとは思っているようですがそれを言葉で表現できないといった可愛い様子を────こほん、あなたに教えるのはこの程度です、それ以上は私だけの望宮さんです」


「だいぶ教えてくれたように聞こえたけど?」


「気のせいです」


 私としたことが…私と望宮さんだけの大事な話を、ソフィアに惚気話のようにあんなにも簡単に話してしまうなんて…


「とにかく、勝負よ!わかった?」


「良いでしょう、ソフィア…勝負に負けた方が命令を一つ聞くのなんて、?」


「もちろん…アリスも、どんな命令でも聞くこと、わかった?」


「えぇ、望むところです」

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