第62話 恋の災いは徹底的に潰しておくのなんて、海外では普通ですよ?
その後は単純だった。
アリスが一瞬でソフィアの背後に回ると、一瞬でソフィアのことをダウンさせて片手でソフィアのことを拘束。
そしてテーブルの上に置いてあった手錠の鍵をもう片方の空いている手で取ると、それを俺の手錠の鍵穴に差し込んで解錠し、俺のことを解放して…
「いたた…って、はぁ!?ちょっとアリス!何すんの!?」
「何、とは?あなたが望宮さんにしたことを、あなたにもそっくりそのままして差し上げているだけです」
アリスの言っていることからもわかる通り、ソフィアはアリスによってドアノブに手錠で繋がれ、さっきの俺と同じ状態になっていた。
「…今から私に何する気?」
「言ったでしょう、報復です」
するとアリスは俺の手を引っ張り、俺の部屋のテレビをつけた。
「テレビなんて見てどうするんだ?」
「テレビというよりも、私見たい恋愛映画があるのですが、よければ一緒に見ませんか?DVDは持ってきました」
「ちょっと、私のことこのまま放置しておく気?報復なんて言うから何してくるのかと思えば、アリスも甘く────」
「お口はチャックというなのガムテープをしておいてあげますね」
アリスはソフィアの口元に持参していたらしいガムテープを貼った。
ソフィアは何か文句を言っているようだがガムテープのせいで内容はわからず、やがてソフィアは静かになった。
「静かになったところで…望宮さん、映画を観ましょうか」
「あぁ、わかった」
すぐ近くに手錠で拘束されて口にガムテープを貼られている人が居る状態で映画を観るのなんて異例中の異例だが、ひとまずは映画の内容に集中しよう。
そう思い、その恋愛映画を五分ほど見ていると。
「望宮さん、素敵な恋愛映画ですね」
「そう…だな」
アリスの言う通り、映画の内容はドロドロ要素なんて全く無い純愛もので、ただただ二人の男女の甘酸っぱいラブストーリーが展開されているのだが、この五分間の間でアリスは俺の手を握り体を俺に密着させてきた。
恋人だから普通だと言われればそれまでだが、あまり映画に集中することができない。
「あっ、望宮さん!キスシーンですよ!」
「…え?全然キスシーンじゃな────」
キスシーンでも何でもない日常の映像が流れているときにアリスがキスシーンと言ったことに理解が及ばなかった俺は、アリスと会話するためにアリスの方に顔を向けた────その次の瞬間、すでにアリスの顔が俺の目の前にあり、そのままアリスにキスをされた。
…十秒ほどキスを続けると、アリスは俺から唇を離した。
「アリス?別にキス自体は構わないが…今日はちょっと変じゃないか?映画を観るって言ったのに俺に体を密着させてきたり、いきなりキスしてきたり…」
「変ではありません、私は普段から望宮さんと今以上にスキンシップを取りたいと思っています…と言いたいですが、今日が異例であることは認めます」
どうやらそれはアリスも認めるらしい。
「私は、報復すると言いました」
「言ってたけど…それが?」
「ソフィアのことを見てください」
さっきまでも映画を観ていたからその間はソフィアのことを見れていない…ソフィアがどうかし────
「ん〜!んんんん〜!!」
「……」
────そういうことか。
「このように、恋愛映画を観ながら私たちがイチャイチャしているところを間近で見せる、それだけで身動きの取れないソフィアにとっては地獄でしょう」
言っていることが相当恐ろしい…俺たちがただ普通の恋人のようにしているだけで、俺のことをアリスのためというのもあるだろうが好きだと言ってくれたソフィアのことを確実に苦しめられる報復方法。
よくこんなことを思いつくな…
「ということで望宮さん!もっとイチャイチャしましょう!」
「もっとって…もうキスまでしたんだ、ソフィアだって反省────」
「ソフィアは私から望宮さんのことを略奪しようとしたんです」
「それには理由が────」
「恋の災いは徹底的に潰しておくのなんて、海外では普通ですよ?」
…アリスの視点に立ってみると、その気持ちは痛いほどわかる。
それに、俺もソフィアの口車に乗せられそうになっていたことは事実だし、俺がアリスに対して口を挟める立場じゃないこともわかっている。
「…わかった」
「はい…ということで!私ともっとイチャイチャしましょう!」
「…ちょっと待てアリス、もしかして最初からイチャつきたいだけじゃ────」
「今更気付いたところで遅いですよ〜!」
その後アリスは俺のことを撫でたり抱きついたりととにかく俺に甘えるということをし続けた…その間、ソフィアはずっと大声で叫んでいた。
…結局、全ては俺とイチャつくために計算されたアリスの手のひらの上だったということだ。
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