第57話 恋人の全てを許容するのなんて、海外では普通ですよ?

「望宮さん!望宮さんはまだお疲れだと思うので、私が走っている姿を見ていてください!」


「あぁ、わかった、無理はしないようにな」


「はい!」


 アリスはランニングマシンの上に乗ると、アリスは髪を括り、手際良くランニングマシンの速度を設定し…スタートを押した。

 速度の方を見ても俺には何キロでどのくらい速くなるのかは知らないが、とにかく俺よりも速度が速く設定されていることがわかる。

 …実際にアリスが走っているところを見て、俺ではまず走れない速度であることがわかる。


「やっぱりすごいな、アリスは」


「この程度で褒めていただけるのですか!?」


「この程度って、十分すごいことだ」


「そんな…!望宮さん!そんなに褒めていただいてしまったら、私癖になってしまいます!」


 アリスはとても嬉しそうにしている。

 …というか、話していると全く疑問に思わなかったが。


「走りながら喋ると疲れたりしないのか?しかもそんなに速いのに」


「まだあまり走っていませんし、望宮さんとお話ししながら疲れることなど絶対にありません!私は望宮さんと会話しているだけで特殊な成分を得ることができます!」


「特殊な、成分…?」


「はい!私は望宮さんと会話…いえ、少し関わっているだけでも、望宮さんから素晴らしい成分を────このような話は、望宮さんに直接する話ではありませんね」


 アリスは突如冷静になると、走ることに集中し始めた。

 …今や自分の彼女になったアリスだからこそ素直に思えることだが、アリスは本当に美人だ。

 走っている姿も絵になっているし、括った髪も走るたびに揺れたり、アリスの大きな胸も────


「な、何を考えているんだ俺は!」


 俺は一人首を横に振り、自分を諌めた…のだが。


「何を考えていたのですか?望宮さん」


「アリス!?い、いつの間に!?」


「望宮さんから熱い視線を感じたので、私のどこに望宮さんから熱い視線をいただけるほどの魅力があるのかお聞きしたくて一度ランニングマシンから降りました!」


 アリスが走っていたランニングマシンの方を見ると、いつの間にかランニングマシンが止まっていた。


「いや…そんなことより、もう走らないのか?」


「そんなことではありません!望宮さんが私のどこに魅力を感じてくださったのか知りたいと思うのは、恋人として当然のことです!」


 何も間違えたことは言っていないが…まさか走っている姿も絵になっていて括られた髪とアリスの大きな胸が…揺れて、いる、のに目が行っていたなんて言えるわけがない。


「…走ってる時の姿とか顔も絵になってるなって思ったんだ」


「本当ですか!?ありがとうございます!では、私の胸部に視線を注いでいただいていたのは────」


「み、見てない見てない!」


「どうしてそんな嘘をつくのですか?」


「う、嘘じゃ────」


「恋人の全てを許容するのなんて、?」


「…え?」


「ですから、私は望宮さんのどんな嗜好も全て受け入れるということです…それに、走っている姿や顔、他のどの部分でも望宮さんに好んでいただけるというのは、嬉しいことです」


 その後、俺は大人しく本当のことを白状した。

 だが、断じて俺は際立ってそういうのが好きではないということだけは強く言っておいた。

 …本当に、自分が恥ずかしい。

 …だが、アリスはそんな俺のことを受け入れてくれた。

 そんなアリスのことを見て、アリスがどれだけ俺の育ってきた日本の常識と合わなかったとしても、全て受け入れる覚悟を俺はこの時密かに決意していた。

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