第56話 恋人が膝枕をするのなんて、海外では普通ですよ?

「望宮さんのことを堪能できたことですし、そろそろトレーニングを始めましょうか」


「あぁ…そうしよう…」


 アリスに腕やお腹、足を触り尽くされた俺はもうすでに体力を失っていたが、それでも気を取り直してトレーニングに励むことにした。


「そういえば、アリスはよくジムとかは来るのか?」


「最近はわかりませんが、昔はトレーニングをよくしていました、海外の自宅の方には部屋の一室としてトレーニングルームがあり、その部屋でほとんど毎日トレーニングをしていたくらいにはトレーニングを好んでいます」


「そうなのか…」


 自宅にトレーニングルームって…ソフィアの日本の家にもあったが、それも海外では普通なんだろうか。


「最近はわからないって、ほとんど毎日してたトレーニングを最近はやめたのか?」


「もちろん健康維持のための適度な運動はしていますが、トレーニングと呼べるかどうかは…日本の自宅にはトレーニングルームが無いのと、望宮さんと出会ってからはトレーニングなどしている暇は少なかったので、日本でジムに来るのは本日が初めてです」


 アリスは簡単に言っているが、今までほとんど毎日続けていたトレーニングをやめるというのは、口で言うほど簡単なことじゃない。

 …それだけ、アリスは俺に対して好意を向けてくれていたんだろう、ずっと。


「アリス、今日は一緒にトレーニングを頑張ろう」


「はい!」


 ということで、まずは目の前にあるランニングマシンからしてみることにした。


「ランニングマシン…速さの設定をしないといけないのか、初めてだからどのくらいが良いのかわからないな」


 俺が悩んでいると、アリスが自信満々な顔で話しかけてきた。


「私にお任せください!望宮さんには万が一にも怪我などしてほしくありませんので、私がしっかりとサポートして見せます!」


 そうだ…アリスが一緒に居てくれるなら、ある程度のトレーニング機器のことはわかるはずだ。


「ありがとう、本当にありがたい」


「任せてください!その前に望宮さん、軽く足のストレッチをしていてください、怪我をすると大変です」


「わかった」


 俺はアリスに言われた通りに軽く足のストレッチをし終えると、アリスがすぐに俺に適正だと思われる速度でランニングマシンを設定してくれた。

 人生初のランニングマシン、俺は何分くらい走り続けられるだろうか。


「では…スタートします!」


「あぁ!」


 アリスがスタートボタンを押すと、ランニングマシンが動き出した。


「はぁっ、はぁ…」


 俺はひたすらに手と足を動かす。

 …すごい、本当に走っているかのように疲れる。


「も、望宮さん!?大丈夫ですか!?しんどければいつでも止めますからね!」


「ちょっと呼吸が乱れるくらい許してくれ!ていうかそんなので止めてたらトレーニングにならないだろ!」


「そう…ですね、ですが無理はなさらないでください」


「あぁ、あくまでもトレーニングだ…それより、アリスはトレーニングしないのか?俺の隣にもう一台ランニングマシンがある」


「望宮さんに万が一のことがあるかもしれないですのに、その可能性を無視してトレーニングをすることなんて私にはできません!」


「…アリスは優しいな」


「当然のことです!」


 それから15分ほどして…とうとう俺にかなりの疲れが襲ってきた。


「はぁっ、っ、んっ、はぁ…」


「も、望宮さん!そろそろ休憩に致しましょう?」


「…まだ、あと少し、せっかくアリスの前で運動する機会だし、ちょっとだけかっこつけさせてくれ」


「格好など付けなくとも、望宮さんは元よりかっこいいお方です!」


「そうか…なら、お言葉に甘えてちょっと休憩させてもらう」


「はい!」


 アリスは俺のトレーニングマシンを止めると、俺に水を渡してくれた。


「ありがとう」


 俺が水を飲むと、アリスはソファに座り、俺にも隣に座るよう促してきた。


「望宮さん、失礼します」


「え?」


 アリスは俺に一声かけると、俺の頭をアリスの膝の上に置いた。


「ア、アリス!?」


「何をそんなに驚いているのですか?恋人が膝枕をするのなんて、?」


「……」


 俺は体力が回復するまでの時間、アリスの膝の上で休憩することにした。

 …その間、アリスが恍惚とした声音で何かを呟いていたが、何を言っているのかは聞き取ることができなかった。

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