第44話 全力で勝負したいのなんて、海外では普通でしょ?

 本当に危ういことになった…最悪の場合俺は男子でアリスは女子、力勝負なら負けることはないだろうが、それにしたってこの状況になってしまったことがまずい。

 だが言われてみればアリスの気持ちになってみると確かに計り知れないほど心が痛くなってしまっても全くおかしくない。


「アリスが俺のことを恋愛的に好きだと想ってくれてるアリスの気持ちはよくわかったから、一回────」


「失礼ですが、望宮さんは私の気持ちのことを一割ほどしか理解できていないとお見受けします」


「一割!?」


 …ついさっきアリスの恋愛感情を否定するようなことを言ってしまったからそう思われても仕方ないが、今の俺は十分にアリスの気持ちを理解しているつもりだ。


「つまり、私は望宮さんが想像している私の望宮さんへの愛情よりも十倍は望宮さんのことを想っているということです」


「もし俺がアリスから感じてる愛情より十倍も本来アリスが俺のことを好きでいてくれてるとしたらそれはもはや変な方向の愛になっていたとしてもおかしく無い」


「はい、ですから望宮さんには常に私の部屋に居ていただければなと密かに考えていたこともあります」


 そんなことを考えていたのか…


「そして、望宮さんはソフィアに易々と腕を組まれてしまいました、ですから私はより大きな望宮さんの初めてをいただきます…具体的なことは、直接体に────」


「アリス、それに望宮も、私が居ること忘れてる?」


 …もちろん忘れてなんていなかったが今はアリスにだけ集中していたことは否定することができない。


「…ソフィア、そもそも誰のせいでこうなったのかわかっていますか?」


「はぁ?私のせいとでも言いたげな感じだけど、もしアリスが不満に思ってるんだとしたらそれはアリスのせいだから」


「…私の?」


「どうせ堅実なアリスのことだから今までは控え目な方法で望宮にアプローチしてたんでしょ?私が望宮の腕組んだくらいで騒いでるんだし」


 …

 …今まで海外では普通ですよ?と色々な有り得ないほどの距離の詰めかたをされてきたが、あれが全て控え目なアプローチって、そんなわけがない。

 そう思い俺はアリスの反論を待っていたのだが…


「…その点は、あなたの言う通りかもしれません」


 …え?


「私は望宮さんに嫌われるのを恐れて、今まで無意識のうちに自分に制限を設けていたのかもしれません」


 自分に制限、え?

 …どこがだ?二人とも日本語を使い間違えていないか?


「そんな手加減してるアリスに勝っても嬉しく無いから、この恋愛っていう勝負も全力でかかって来て」


「…あなたに気付かされることがあるとは、思いもしませんでした」


 二人の話が全く頭に入ってこないほどに、俺は今混乱していた。


「全力で勝負したいのなんて、でしょ?」


「そうでしたね…勝負という表現は適切かわかりませんが、あなたの言い方に合わせるとするのであれば…この勝負だけは、絶対に負けるわけにはいきません」


「望むところ」


 アリスはいつの間にか目にハイライトを宿しており、二人は良い笑顔で互いを見据えている。

 そして…


「望宮さん、私…もう、我慢しませんから」


「え…あ、あぁ」


 アリスは俺に決意の言葉を伝えてきた。

 …俺はよく意味がわからなかったが、その意味は、その日の放課後からすぐに行動としてわかるようになった。

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