第17話 怒ったらわかっていただくなんて、海外では普通ですよ?
「ん…」
俺は外からの太陽の日差しで目が覚めた。
…何故か、今日はとても新鮮な目覚めだ。
俺が体を起こそうとすると、体の左側に少し違和感を感じた。
「なんだ…?」
違和感を感じた左側を見てみると、そこには寝顔の完全無防備な状態を見せているアリスの姿があり、しかも軽くではあるが俺に抱きついていた。
「うわっ!?え、どうしてアリスが俺の部屋に!?」
口でそう言った後に目から入ってくる視界情報によって、俺はここが俺の部屋ではなくアリスの家のアリスの部屋だということを思い出した。
「…そうか、俺は本当にあのままアリスの家に泊まったのか」
「そうですよ、望宮さん」
「起きてたのか!?」
つい数秒前まで完全に無防備な寝顔だったはずなのに、いつの間にかアリスが小さな笑みを浮かべて俺のことを見ていた。
「望宮さんの大きなお声で起きました」
「あ…起こしたのか?それは悪い」
「とんでもありません、私からすれば望宮さんのお声で起きることができるなんて素晴らしい目覚めですよ」
「…本当か?もし俺を気遣ってるなら────」
アリスは俺に抱きついていた手を離し体を起こすと、俺の口元に自分の人差し指を当てながら言った。
「そういうお優しいところも私が望宮さんのことを直感的にも好きになった理由ですが、今回は不要ですよ」
「お、おい…!」
俺はすぐにその人差し指から顔を離すようにして顔を逸らした。
…ん、ちょっと待てよ。
「そもそも!どうしてアリスが俺が寝てたベッドにいつの間にか移ってきているんだ!」
アリスが寝ていたはずのベッドの方にはもはや何の影もなく、アリスは当然のように俺が寝ているベッドの方に居た、しかもさっきまではそれに加えて俺に軽く抱きついていた。
「それは昨日、眠る前に私がお話ししようとしたことを無視して望宮さんが眠ってしまったからです!」
「眠る前って…」
確かお泊まり会は電気を消してからが本番とか言ってたな…
「あれは…仮にそれで怒ったんだとしても、だからって抱きつこうなんていう思考には普通ならない」
「怒ったらどうなるかをわかっていただくのなんて、海外では普通ですよ?」
アリスはそう言いながら改めて俺に抱きついてこようとしたので、俺はそれを避けてベッドから降りた。
「どうして避けるんですか!」
「どうして俺が避けないと思ったんだ!」
「抱きつかれるのは心地悪いことでは無いはずです!」
「良い悪いの問題じゃなくて、抱きつくような関係性でも無いのに抱きつかれるなんてなったら避けるだろ!」
「…心地は良いん、ですか?」
「…え?」
「私に抱きつかれるというのは、望宮さんにとって心地良いものなんでしょうか?」
…素直に答えるのであれば、良かったような気も────
「何を考えてるんだ俺は!」
「望宮さん?」
「な、なんでもない!ていうか今日学校だよな!?時間は…まだ帰って支度してもギリギリ間に合うな、ちょっと俺は帰る!」
「も、望宮さん!?…また学校でお会いしましょうね!」
俺は着替えや荷物を持ってアリスの家を出ると、全速力で走った。
時間的に急がなければいけないということもあるが、それ以上に。
全身で感じるこの疾走感が無ければ、俺は今恥ずかしい気持ちで胸がいっぱいだからだ。
こうして、俺とアリスの短いお泊まり会は終わった。
…海外では普通と言われて押されてきたが、それも今日までだ。
今日何か学校でアリスに言われることがあっても、絶対に押し負けないようにしよう。
そう意思を固めて、俺は家に帰り改めて支度をしてから学校へ向かった。
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