第18話好きな殿方のことしか見ないなんて、海外では普通ですよ?
「望宮さん望宮さん!本日の放課後はどこへ行きますか!?」
「…行かない」
「…え?」
今日の朝まで家に泊まらせてもらっていた相手にする対応では無いかもしれないが、それにしたって俺は今までずっとアリスに流されっぱなしだ。
この辺りで俺の意思というか意地というかを発揮しておく必要がある。
「どうしてですか…?」
「ずっとアリスに流されっぱなしだからだ」
「別に構わないじゃ無いですか」
「俺は構うんだ!」
俺は放課後までその調子で凌ぎ、いざ放課後になってもアリスのことを上手く受け流す。
「本当に今日はどこへも行かないんですか?私の人生の楽しみは望宮さんとどこかへ出かけたり楽しいことをしたり一緒に居たりすることだけなのに…」
そう言われると断りづらいが、俺はそれでも自分を通す。
「いつか俺と離れた時のことも考えて、アリスは自分だけでも楽しむことを考えた方がいい、今までの人生には俺なんて居なかったんだし、難しいことじゃ無いはずだ」
「はい…?」
アリスは俺の方を掴むと足を止めた。
アリスの顔を見てみると、少し動揺した顔をしていた。
「望宮さんは私のそばから居なくなろうとお考えなのですか?」
「わざわざ自分から居なくなろうとは考えてないが、大学だって行くところが同じになるなんてことは無いだろうし────」
「私は望宮さんと同じところへ行きます」
「…は!?」
何の冗談だと思ったが、アリスは一切の揺らぎない瞳で俺のことを見ていた。
…本気なのか。
「そんなこと言って、将来はどうするつもりなんだ?俺が学びたい分野とアリスが学びたい分野が同じ保証なんて一切ない」
「私は望宮さんのことを学びたいので、大学なんてどこでも良いんです」
「俺はただ道案内をしただけだなのに、どうしてなんだ?どうしてそこまで俺のことを好きになれるんだ?」
「きっかけはそうだったとしても、それも出会いの一つです、そして仮に最初の出会いは小さなものだったとしても…私はもう、知らない仲では無いじゃないですか」
…そうか。
最初のきっかけは俺からすると理解不能だったが、それからはまだ短い日数かもしれないが、それでも確実に一緒の時を過ごしてきた。
その中で育まれてきたものは、最初のきっかけより何倍も…大きい。
「…そうだな、俺が間違ってた」
「本当ですか!?では私のことを恋人と────」
「そこまでは言ってない!…でも、今日は映画館とかに行ってみるか」
「映画館…!楽しみですね!」
俺は、結局今日もアリスと放課後に出かけることになった。
…アリスには、表現しがたい魅力がある。
見た目は言うまでもないが性格が特にそうで、一見元気なように見えるがふとしたときには真面目な顔をしていたり、怒ったり悲しんだり、その感情一つ一つが俺の心を動かす。
この感情は…
俺が考え事をしているうちに、映画館に着くと俺たちは見たい映画を決めチケットを購入、そして指定されたスクリーンの座席に移動した。
俺とアリスの席は隣だ。
『犯人は、あなただ!』
『なんで俺が!?』
『部屋の構造とアリバイの時間を照らし合わせると、あなたしかいない!』
今回選んだ映画はミステリーもの。
アクションになりすぎると男子向けすぎる気もするし、恋愛になると女子向けになる気もするしで、アリスは何でもと言ってくれていたが互いに見やすそうなミステリーものを選んでみた。
特に過度な表現はなく、頭を使うミステリーを楽しめている。
物語も最終局面、隣に座っているアリスの反応が気になった俺は少しだけアリスの方を見てみる。
すると…
「……」
「……」
俺とアリスは、目が合った。
俺はすぐに視線をスクリーンに戻す。
…なんで目が合うんだ!?
映画館はずっとスクリーンを見る場所のはず…それともアリスも俺の反応が気になって今ちょうど見たのか?
そんな偶然が…?
「……」
まだ視線を感じる。
…待てよ、もしかして。
アリスはずっと俺のことを見ているのか…?
そうすれば疑問は解決できる。
今は映画中で音を立てるわけにはいかないため、映画が終わったら色々と問い詰めてみようと考えていた俺だが、アリスが周りの人には聞こえないくらい小さな声で俺の耳元に耳打ちした。
「映画中でも好きな殿方のことしか見ないなんて、海外では普通ですよ?…私が望宮さんを見ていることに気づいて動揺している反応、とても良かったです」
恥ずかしすぎて、もはや映画に集中なんてできるわけがなかった。
映画が終わった後、俺はアリスのことをひたすら説教し、今日は解散になった。
…本当に、アリスと居ると毎日が楽し────楽しい?
…俺は、自分の中の新たな感情が、見えてきたような気がしていた。
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