第15話 異性でもお風呂に入るなんて、海外では普通ですよ?

 俺は改めてリビングに戻らされると、アリスは俺のことをリビングの椅子に座らせた。


「…望宮さん、ハッキリ言って、望宮さんのことを私の家に連れ込むことができた時点で、望宮さんが私の手を逃れてこの家から出ることは不可能です」


 アリスは明るい声でも暗い声でも無く、ただただ事実を淡々と述べるように言った。


「そうは言われても…俺はご飯くらいなら一緒に食べようという軽い気持ちで来たんだ、いきなりお泊まり会とか言われても…」


 そもそも異性はおろか男友達とかの家にすら今までの人生で泊まったことが無いのに、いくらなんでもハードルが高すぎる。


「望宮さん、もうあと数分ほどでお風呂が沸くのでお風呂に入って落ち着いていてください、きっとお風呂ならリラックスできます、しっかりとタオルや着替えはこちらの方で用意させていただいているので」


「もう用意されてるっていうことは今日俺がこの家に来ることは決定していたのか?」


「いえ、来たるべき時に備えて用意していただけです」


 本当に、まだ恋人でも無いのに衣服を用意しているなんて用意周到を通り越して恐怖を感じるな。

 …それよりもだ。


「落ち着けるわけないだろ?他人の、それも異性の家のお風呂でなんて、そこに居ることが問題なのに」


「良いですから良いですから!」


「お、おい…!」


 入る時にも思ったが、この家は広い。

 パッと見た感じでも一軒家三個から四個分の広さがあり、加えて家全体の雰囲気も少し日本とは異なる雰囲気、おそらくこの家は英国人であるアリスの家族が住みやすいように一から建てたものなんだろう。

 なんて考えていると、俺はお風呂前の脱衣所に連れられた。


「ではでは、ごゆっくり、あ、着替えはそのカゴに入れておいてくださいね」


「…はぁ、わかった」


 どうせ帰してもらえないなら、もうその前提で動くしかない。

 そしてその前提で動くなら、お風呂に入るわけにはいかないため入れる時に入っておいた方が良いのは間違いない。

 俺は服を脱いで、それをカゴに入れてからお風呂に入った。


「お風呂は…壁紙がお花になってるだけで、それ以外は特に日本と大差ないのか」


 海外はシャワーだけ浴びるというのが普通というところもあるらしいし、もしかしたらそれよりかはしっかりと浸かれるタイプのお風呂が良いと思ったのかもしれないな。

 俺は終始他の人の家のお風呂で落ち着くことはできなかったが、一応体を洗いお風呂に浸かったことで少なくとも身体的にはリラックスできたんじゃないかと思いお風呂から出た。


「あ…」


 お風呂から出た先の脱衣所には俺の着替え…しっかりと下着までもが用意されていた。


「…青の長袖に動きやすい感じのズボンか」


 悪くないなと思いつつ俺はそれらを着用し、リビングに出た、


「あ、望宮さ────お風呂上がり…!いつもより色気が出ていますね…!」


「髪の毛が濡れてるだけだ、どこでドライヤーをすればいいかわからなかったんだ」


「全然どこでも構いませんのに…せっかくですから、私がドライヤーして差し上げます」


 今度はリビングテレビ前にあるソファーに座らされると、アリスが俺の後ろに立ってドライヤーの電源を入れて俺の髪を乾かし始めた。


「どうですか〜?」


「あぁ、ちょうど良い感じに乾いてきてる」


 …いつもは自分で乾かしているため、他の人に乾かされるというのは、何とも不思議な感覚だ。


「…こうしてドライヤーで乾かして差し上げるというのも、恋人になればきっと普通になるんでしょうね」


「そうなのかもな」


 俺は不思議とこの時、そのことをそんなことにはならないと否定したりはしなかった。


「…恋人でなくても、一緒にお風呂に入るくらいはしても良いかもしれませんね」


「え…良いわけないだろ!」


「異性の友達でも一緒にお風呂に入るなんて、…ですよ?」


「今ちょっと間があったな」


「…ありません!」


「じゃあ顔を見せてくれ」


 俺は後ろを振り向こうとするが、アリスは俺のことをずっと前に向けさせた。

 今絶対に見られたくない顔をしているんだろうことはわかった。

 そして俺の髪を乾かし終わった直後、今度はアリスがお風呂に入って行き、俺はアリスの部屋で待たされることになったのだが。


「…落ち着かないな」


 もちろん俺は落ち着くことなんてできるわけがなかった。

 そしてアリスは、髪を乾かさずに俺の居るアリスの部屋に入ってきた。

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