第13話 スキンシップなんて、海外では普通ですよ?

 疑うって言われても…


「前にも言った通り俺は恋愛をしたことがないし、仮に俺が彼女が居たとしても、現時点でアリスには関係無いはずだ」


「ありますよ、私は望宮さんの事を好きなんですから、もしパートナーが居るのであれば少しだけ困ります」


「少しだけ…?」


 もちろん俺には本当に彼女なんて居ないが、アリスの立場に立ってみたら困る度合いは少しだけでは無いはず。


「はい、もしも居るのであれば、多少強引にでも別れていただかなくはなりません」


「え…!?どうしてだ?」


「私こそが望宮さんの正妻に相応しいからです、海外には一夫多妻を良しとする考えもありますが、私はそれだけは絶対に許せません」


 いつもは海外では普通って持ち出してくるのにそこは反対してるのか、まぁ俺も日本に生まれ育った以上それと同じ考えをしているから否定はしないが。


「とにかく、俺に彼女は居ない」


「そうですか…となると、私に魅力が足りないのでしょうか?」


 アリスは自分の頬を触ると、次に肩、腕、胸、お腹、足と、自分の体を確かめるように触っていく。


「アリスは信じられないくらい魅力的だと思う」


「でしたら────」


「でも、それと恋愛感情は別だ」


「…そうですか」


 アリスは少し沈黙すると、俺の横に座り両手を自分の両手をお腹の下の方で重ね、綺麗な姿勢で口を開いた。

 …別に構わないが男女の高校生がベッドの上で会話をするというのはどうなんだ、しかも恋人でも無いのに。


「伝わらないものですね、私は本当に心の底から望宮さんのことを愛しているのですけど」


 アリスは寂しげに言った。

 …罪悪感を誘われるが、俺はそれを必死に堪える。


「あの…望宮さん、一つ大事な提案があります」


「なんだ?」


「よければ、私の家に来ませんか?次の休日にでも」


「え…勉強のためにか?」


「いえ、単なる私の願望────そうです、勉強のためにです」


「ちょっと待て、今何か言おうとしてなかったか?」


「勉強のためです」


 絶対にそうでは無さそうだが、問い詰めても仕方ない。

 …アリスの家か、気にならないと言えば嘘になるがいきなりアリスの部屋に行くというのも飛躍している気がする。

 とはいえ断るというのも何か違うような気がする。


「わかった、行こう」


「ありがとうございます!あと一つお願いがあります」


「なんだ?」


「合鍵を下さいませんか?」


「…は?」


 素直にそのまま疑問の声が漏れ出てしまった。

 …何を言っているんだ?アリスは。

 とうとう本当におかしくなってしまったのか、そう思った時にアリスがいつものように理路整然りろせいぜんと言葉を紡ぐ。


「もちろんよこしまな考えがあってのことではありません、しっかりとした理由があります、例えば望宮さんが病にかかった時などに私が合鍵を持っていれば、私が迅速にかけつけることができます」


「別にアリスが来なくても救急車で良くないか?」


「いえ、風邪になった時などは私が看病して差し上げるのが一番良いと思います」


「そういうことなら────なんてならないからな?」


「そうですか…望宮さんがそう言うのであれば、仕方ないですね」


 …あっさり諦めた?

 俺が合鍵を渡さないことなんて最初からわかっていたはずなのに、そんなにあっさり諦めるならどうして聞いてきたんだ?

 俺はそう疑問に思いながらなんとなく時計を見てみた。

 時刻はあと少しで19時に差し掛かろうとしていた。


「アリス、そろそろ帰ったほうが良いんじゃないか?」


「それもそうですね」


 アリスは制服を含め荷物を持ち玄関に向かい、俺はその後ろを見送るために追う。


「じゃあ、また学校で」


 玄関についてから別れの言葉を言った俺に対して、アリスが予想外のことを言ってきた。


「望宮さん…その、私、怖いです」


「…え?」


 怖い…?


「何がだ?」


「夜道を一人で歩くと言うことが怖いので…よかったらそこまで遠くはないので私の家の近くまで送ってくれませんか?」


 そういうことか。

 …そこまで遠くないってことだし、何より怖がっているアリスを一人で帰すなんていうことはできない。


「わかった、送っていく」


「ありがとうございます!」


 俺は鍵とスマホだけ持って家を出て、しっかりと戸締りをし、アリスのことを送り届ける。

 約十分ほど足を進めると、アリスは足を止めた。


「あとはそこの角を曲がれば家に着きます」


「あぁ、そうか」


「送ってくださりありがとうございました」


「気にしないでくれ」


 俺がそう言うとアリスは微笑んだ。

 そして…驚いた顔をしながら言った。


「あー、よくよく考えたらこんな暗い夜道を望宮さん一人でなんて私帰せないですー」


「…え?」


 驚いた顔ではあったが声だけはとても棒読みだった。


「今日はもう遅いですし、早く家に入ったほうが安全ですねー」


「ちょっと待て、どういう────」


「私の家に来てくださいということです望宮さん!」


「え!?」


 アリスは俺の背中側に回ると、強引に俺の背中を押した。


「ちょっと待て、怖いとか言ってたのってもしかして────」


「もちろんですよ?」


「冗談だろ!?」


「冗談ではありません」


 その言葉の証拠にアリスは俺のことをまだ強引に押して家へと向かわせている。

 俺がアリスから離れようとするも、アリスは俺の腕を掴んできた。


「アリス…!?」


「望宮さんにはこの長袖を貸していただいたということもありますし、是非夜ご飯くらいは食べていってください」


「気にしなくて良いって、だから離して────」


「強引にスキンシップするのなんて、?」


 俺はアリスに押しきられる形でアリスの家に招かれた。

 …どうしてこんなことになるんだ。

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