第8話 本気を出すのなんて、海外では普通ですよ?

 それにしたって男子、それも運動部の男子のボールをこんなに平然と受け止めるなんて…運動神経良すぎるだろ!


「…さて、望宮さんにこのようなボールを投げた方には制裁を加えないといけませんね」


「え…明星さん?これはそういうルールだから、別に────」


 明星さんは俺がそんなに怒るようなことではないと弁明しようとしたが、その声は届かず。

 明星さんは力強くボールを投げた。

 だが、女子の投げたボールだと俺にボールを投げた運動部男子はそれを受け止めようとしたが…


「ぐあっ」


 …え?

 運動部男子はそれを受け止めることができず、ボールは相手チームの外野に落ちた。

 その瞬間、生徒ほぼ全員から歓声が上がった。


「おおおおおお!!」


「すげええええ!!」


「明星さん、運動神経も良いんだ!!」


 といった、とにかく明るい声が明星さんに向かって飛んできていた。

 だが、明星さんは全く気にすることなく、俺に対して意見を求めてきた。


「望宮さん!どうでしたか!」


「え、あぁ、すごいと思う」


「そうではなくて!嫁入りさせていただくという意味で、合格ですか!」


「嫁入り!?恋人にすらなってないのにか!?」


「え、恋人にしてくれるんですか!?」


「そんなこと言ってな────明星さん!」


 俺たちが話し合っている間に、後ろから女子生徒が明星さんのことを狙っていた。

 明星さんは相手チームに対して背を向けているため、これには気づけない…かと思ったが、明星さんは右手を後ろに回してワンタップしてからそのボールを持った。


「…私と望宮さんが大事な話をしている間に、邪魔をしないでください!」


 明星さんは自分にボールを向けてきた女子に対して、ボールを投げ返して、しっかりと当てた。

 男子すら受け止められないボールを女子に当てたら痛いんじゃないかと少し心配したが、しっかりと加減はしたようで、女子はそこまで痛くはなさそうにしている。


「望宮さん!どうなんですか!」


「え…?だ、だから、俺はまだ明星さんのことをよく知らないし、いきなり恋人とか言われても困る」


「では私の何を知りたいですか!知りたいと思ってくださったところをいくらでもお教えします!」


 さっきボールを投げたら明星さんが怒っていたためか、もはや相手チームもこちらにボールを投げてくることはなく、ただ俺たちの問答を黙って見ていた。

 …いや、ボールを投げてくれ、どうしてこんなクラス中のみんなの前でこんな場を設けられないといけないんだ。

 しばらくゲームが進行しないのを見かねてか、進馬先生が俺たちに話しかけてきた。


「あー、親睦を深めるためとはいったが、二人の痴話喧嘩を見る会にするとは言ってない、表面上進行してくれないと他の先生が見にきた時に色々と面倒になるだろー」


 先生は軽い口調でせめてドッジボールは再開してくれと言ってきた。

 ごもっともだ、周りを見渡してみるといつの間にかこっちのチームはもう俺と明星さんしか居ないし、こっちのチームにボールが来たら俺たちがゲームを進行しないといけない。


「明星さん、その話の続きは、このドッジボールが終わってからにしよう」


「…わかりました、このドッジボールを終わらせれば良いんですね」


 明星さんはそう言うと相手チームの方に振り向き、言った。


「大変お待たせいたしました、ゲームを再開してください」


「は、はい」


 明星さんが敬語を使ってはいるが謎の怖いオーラを放っているため、相手の男子生徒は何故か丁寧な言葉遣いになっている。

 そしてそのまま明星さんにボールを投げた。

 だが明星さんは当然のようにそれを受け取ると。


「早く話を進めたいので…少し我慢してくださいね」


「へ?」


 明星さんは一人の男子生徒にボールを当てると、そのボールが自分の手元に戻ってくるように調整した、バウンド力がすごい。

 そしてそのまま軽々と全員にボールを当てた。


「さて…では、お話の続きをしましょうか」


「あ、明星さん…どうなってるんだ?」


「好きな殿方とお話をするときに本気を出すのなんて、?」


 その後俺は明星さんに徹底的に明星さんについて何を知りたいのかを聞かれることになった。

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