第6話 演技なんて、海外では普通ですよ?
「そういえば、先ほど靴のサイズも合わないと言っていましたが、大丈夫ですか?私の手を握って歩きますか?」
「そんなことも聞こえてたのか…別に大丈夫だ、心配してくれてありがとう」
「はい、心配半分と手を繋ぎたい半分です」
「さっきは繋ぐじゃなくて握るって言ってたのになんだか本音みたいなのが垣間見えたな」
歩いていると、すぐにコンビニについて俺は早速筆記用具のコーナーに移動する。
「これで良いか」
俺はシャー芯を手に取ると、レジに並ぼうとしたが、明星さんが興味深そうに何かを見ていたため、明星さんの方に行く。
「明星さん?何を見てるんだ?」
「も、望宮さん!こ、こっちに来てはダメです!」
「え?」
俺は明星さんに両目を覆われた。
…何事だ?
「あ、明星さん?」
「こ、こちらには…水着姿の女性が写った雑誌があります」
「あぁ…そういうことなら、わかった」
俺は一度振り返り、明星さんの居た方向とは反対方向を見る。
「これで良いか…?」
「…はい!」
明星さんはゆっくりと俺の両目から手を離した。
…そうか、もし俺が道案内した日に日本に来たんだとしたら、明星さんは日本に来てから一週間も経っていない。
だから日本のコンビニとかも全然見慣れてないんだ。
「…日本ではあのような破廉恥なものが平然と置かれているんですね、あれは望宮さんの毒にもなり得ます」
「毒って…言い過ぎじゃないか?確かにずっと見るのは色々と危ないかもしれないけど、コンビニに置いてるくらいなら大丈夫だ、高校生ならそういう雑誌とかを買ってる人だって一定数居るだろうし」
「え…?もしかして望宮さんもあのような雑誌を…?だとしたら────」
「待て、俺は別に買ってもなければ読んでもない、ただ世間的な認識を話しただけだ」
「…なら良いのですが」
明星さんは一旦落ち着いたようだ。
…確かに日本のコンビニのことを何も知らなかったなら、取り乱しては無理もないか、俺も逆の立場だったら明星さん以上に取り乱してるだろうしな。
俺は明星さんについてくるよう合図して、レジに向かった。
店員さんは俺よりは年上だがそれでも全体的に見れば若い女の人みたいだ。
「シャー芯一点ですね、画面に表示されている金額をお支払いください」
「はい」
俺が言われた通りお金を払うために財布を取り出そうとしたところで、隣から明星さんがすごい勢いで何かをお金を置くためのキャッシュトレイに置いた。
「カードでお支払いします」
しかもこの上ない誇らしげな顔をしている。
ていうか。
「カードって、明星さんそんなの持ってるのか」
「はい、私が元居た国では作れたんです、しっかりとお金も入っています…どうですか?現金よりもカードで払う、それも望宮さんの分を払って差し上げるのは、私のことをかっこいいと思いませんか?」
確かにカードで、というのは高校生が一度は憧れるセリフだ。
…正直、ちょっとかっこいいとは思ってしまった。
「…ちょっと」
「ありがとうございます!」
明星さんは喜んでいる。
…喜んでいる顔も、やっぱり美人だ。
「あの…すみません、こちらのカードは、日本では対応していないようですので、現金または日本でも対応しているカードでのお支払いをお願いします」
それを聞いた明星さんは、石のように固まってしまった。
「わ、わかりました、現金で支払います」
固まっている明星さんの横で、俺は改めて財布を取り出すと、金額ちょうどを現金で支払った。
「ありがとうございましたー」
俺たちはコンビニを後にすると、家へと戻るために歩いた。
「あの…明星さん?どうしてあんなことを?」
明星さんはさっきからずっと恥ずかしそうな顔をしている。
「…望宮さんにかっこいいと思って欲しかったのと、店員さんが女の方だったので、できるだけ私のことを見ていて欲しかったんです」
「それで…あんなことになったのか」
俺がそう言うと、明星さんは見る見る顔を赤くしていった。
そして大きな声とともに口を開いた。
「まさか対応していないとは思わなかったんですよ!…今回はしてやられました」
「そうか、これに懲りたらもう変にカッコつけたりはせず、大人しく俺からも手を引くことだ」
「…望宮さんにとって、私は迷惑ですか?」
「…え?」
明星さんはさっきとは打って変わって、下を向いて声も小さくなった。
いつもの感じで言ってしまったが、もしかして思ったよりも刺さってしまったのかもしれない。
「そうですよね…こんな風に着いて回られたって、迷惑ですよね」
「…悪い、もしかしたら言い過ぎた、別に迷惑ってわけじゃな────」
「ではこれからもよろしくお願いしますね!望宮さん!」
…え?
俺がいきなりの豹変に固まっていると、明星さんはいつものようにニッコリと笑いながら言った。
…もしかして、俺からこの言葉を引き出すために?
「演技をするのなんて、海外では普通ですよ?」
「やっぱり迷惑だ!帰ってくれ!!」
「さっき迷惑じゃないって言ってたじゃないですか!」
「嘘だ!」
「嘘じゃないです!」
「嘘だ!!」
俺の家の前に着いても、しばらく言い合いは続いた。
明星さんは本当に負けず嫌いだった。
…明星さん、か。
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