第5話 ストーカーなんて、海外では普通ですよ?
休日の朝。
ただひたすらにゴロゴロしたり漫画でも読みたい欲求を必死に抑えながら学校の課題をやっていたが、それを邪魔するかのようにシャー芯が無くなった。
「…買いに行くか」
シャー芯ならコンビニでも売ってるだろうし、家からコンビニまで徒歩三分くらいで行けるためそんなに苦でも無い。
俺は玄関で靴を履いて、玄関のドアを開ける。
「…靴のサイズも合わなくなってきたな、二年生にもなったし、そろそろ新しいのを買ってもいいかもしれないな」
なんて独り言を言いながら家の前に出ると、そこには見慣れた…と表現していいのか少し考えどころだが、少なくともここ最近は見慣れた顔があった。
「おはようございます、望宮さん」
何故か家の前に、明星さんが居た。
「え?幻か?」
居るはずのない存在が俺の目の前に居て、俺はその存在を幻だと疑ってしまう。
「幻じゃ無いですよ、ほら」
明星さんは俺の手を取ると自分の首に触らせた。
確かにしっかりと感覚がある。
そして明星さんは俺のその手をそのまま下に下ろし────
「どこ触らせようとしてるんだ!」
俺がそう言うと明星さんは片方の目を閉じて残念そうに俺の手から手を離した。
「海外では普通なんですけどね…」
「そんな罪悪感を誘うような言い方したって乗らないからな!」
「私のことを理解し始めていただいたようで嬉しいです」
「…数日だが明星さんには振り回されたから」
「これからももっと振り回して行って、理解していただけるように頑張りますね!」
「頼むから勘弁してくれ…」
…当たり前のようにここに居るから聞くことを忘れていたが、そもそもの重要なことを俺は明星さんに確認しないといけない。
「…どうして明星さんがここに居るんだ?」
「居てはいけないんですか?」
「居てはいけないっていうか…なんで俺の家の場所がわかったんだ?」
「あ、そんなの簡単ですよ!望宮さんの帰りが心配で私望宮さんと一度別れたフリをしてから後をつけて見守るようにしてたんです」
「俺に隠れて何してるんだ!俺の家の場所勝手に知られても困る!」
「え、どうしてですか?」
明星さんがあまりにも曇りない瞳で聞いてくるから、時々俺の方がおかしなことを言ってしまっているんじゃないかと不安になるが、何もおかしなことは言っていないはずだ。
「大体、俺のことを見守るって言ったら聞こえはいいけど、それって要はストーカーじゃないのか?」
「そう呼ぶことも可能ですね」
「可能ですねじゃない!そう呼べてしまうようなことをしないでくれ!」
「えぇ〜、でも好きな殿方をストーカーするのなんて海外では普通ですよ?」
「…明星さんってどこの海外だったっけ」
「英国です!」
「英国がそんな怖い場所なわけないだろ!」
俺はようやくカウンターできそうなことができたのでここでしっかりとカウンターしておく。
そろそろその最強のワードには屈しないというところも見せないといけない。
「勘違いしないでください、望宮さんがストーカーと称したからそう呼んだだけで、私がしたのは言うなればボディガードに近いです」
「ボディガードって…確かに日本人の女子に比べれば明星さんは身長とかも高いしスタイルとかも良いかもしれないが、俺は仮にも男なんだ、いくら明星さんがすごくても力じゃ────」
「試してみますか?」
「え…?」
明星さんの目が同級生に向けるような目ではないような目になった。
…普通に恐怖を感じる。
「望宮さんが私に屈服した姿というのも見てみたいですし、良い機会かもしれませんね」
「何言ってるんだ!冗談だよな?」
「……」
「沈黙だけはやめてくれ…そうだ、すっかり忘れてた!俺はシャー芯を買いに行きたいんだ」
「そうなんですか?お供します!」
明星さんは元気に言った。
「お供しますって…別に面白いことは何もないと思う」
「いえいえ!望宮さんが私のものだということを望宮さんの家の周りの方にも知っていただきましょう!」
「絶対に変なことはするなよ!?」
こうして、何故か俺は明星さんとこの休日を過ごすことになった。
…どうしてこんなことになってしまったのかはわからないが、なってしまったものは仕方ない。
と思ったのが失敗だったことを、俺はコンビニで思い知ることになった。
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