第4話 ハグなんて、海外では普通ですよ?

 …とはいえ、だ。

 まさか明星さんも本気でそんなことをするつもりじゃ無いだろうし、いざとなれば男女の力の差で俺が勝てるはずだ。

 だがいきなり武力行使というのもよくない気がするし、まずは説得することにしよう。


「明星さん、俺たちは別に恋人とかじゃないんだから、こういうことをいきなりするのは違う、それとも明星さんは、恋人でもない男とそんなことをするような人なのか?」


 少し強い言い方になってしまったかもしれないが、ここは少し強く言っておいて今後のために抑止しておくくらいが丁度良い。

 そう思ったのだが、明星さんは懲りた様子無く口を開いた。


「もちろんそれはその通りです、ですが私は知らない殿方を襲っているのではなく、好きな殿方を襲っているんです、これは生物として正しい行動だと思います」


「生物として正しいのかはともかくとして、人間としてはダメだ、ちゃんと理性を持って生まれたんだからその本能を制御してくれないと」


「無理です!」


「なんでそんなに威勢よくそんなことが言えるんだ!」


 見た目だけなら歩いている時の姿勢とか座っている時の姿勢とかは綺麗で、口調もおそらく日本語の一番王道で学習しやすいのか、もしくはタメ口も喋れるのかはわからないが一応敬語を使ってるしで気品良く見えるが、蓋を開けてみればこれほどまでに恋心に忠実とは。


「第一、俺は本当にただ道案内をしただけで、好きになられるようなほどのことは本当に一切していない、明星さん、目を覚ましてくれ」


「海外では外でたまたま出会った方と恋愛することも珍しくありません、むしろそっちの方が基本という国だってあるほどですよ」


「だからって俺のことを好きになる理由にはならない」


「人が人を好きになるのに理由なんていらないと思います」


 絶対この流れで使う言葉ではないがもし俺が今ここで否定したら俺がなんだか悪い人みたいに見えてしまうのがとても厄介だ。


「…そこをどいてくれないか?今は、案内って名目で一限目を自由に動いても良いってことになってるんだし、もしほとんど何も案内できてませんでしたじゃ進馬先生に怒られる」


「…望宮さんが怒られてしまうんですか?…それはよくないですね」


 そう言うと、明星さんはすんなりと俺の上から降りた。


「でしたら、私にこの校内をご案内してください!」


「あぁ、わかった」


 俺は改めて、校内を明星さんに案内することにした。

 …正直、あんなことをいきなりされれば俺だってドキドキしたし、海外では普通だからって日本でそんなことをしないでほしい。

 …ていうか本当に海外では普通なのか?


「ここが体育館で────こっちがグラウンド────ここは中庭で、自動販売機とか木とかもあってその下にはベンチなんかもあるから一休みできる、こんなところだ」


「ありがとうございます!色々とこれからの算段が着きました!」


「よくそんな難しい言葉知ってるな」


「ありがとうございます!」


 明星さんは笑顔を見せた。

 …そういえば、たまに見せる虚な目というか、一点を見つめるというか、そういった時以外は基本的にいつも笑顔だな、無理して笑顔でいるんだろうか。


「いつも笑顔だけど、それは無理してるのか?」


「いえ?いつも笑顔ではありませんよ?」


「でも現にいつも笑顔だ」


「望宮さんと居るのが楽しいからですよ!私とこんなに親しく接してくれる方は初めてです、ましてや海外からの転入生という形なのに…あと、好きな方と一緒に居れば笑顔にもなってしまいますよ」


 …本当に、好きなのか。

 明星さんが俺のことを好きだというのが本当だということだけは、俺も肌で感じる。


「ていうか、親しく接してもらえなかったのか?海外の方とかで」


「はい、少し色々ありましてこんな風には…そうではなくて!次は移動教室ですし、早いうちに教室に戻っておきましょう!」


「…あぁ、わかった」


 明星さんは露骨に話題を逸らしたが、俺は特に追求しなかった。


「…あ」


 明星さんは振り返ると、一瞬だけ俺に抱きついた。


「…え!?」


「例え友達同士だったとしてもハグをするのなんて、?」


「そ…れは…」


 本当に普通そうだから何も言えない…!

 俺は最後の最後に敗北感を味合わされてから、明星さんと一緒に教室に戻った。

 そして明日の休日、俺には予想だにもしないことが起きた。

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