第3話 独占なんて、海外では普通ですよ?
昨日は結局、美味しいアイスを食べることになったのだが、約束通り明星さんが俺の分も払う形になってしまって悔しかった。
そして翌日、教室に入ると同時に、明星さんが俺の方に駆け寄ってきた。
昨日出かけたことは、幸い誰にもバレていないのか、周りから昨日以上の変な視線が寄せられることはないようだ。
そこだけが唯一の救いだ。
「あ!昨日は私と一緒にお出かけしていただいてありがとうございました!迷惑でなければまたご一緒させていただいてもよろしいでしょうか!」
明星さんがそう大声で言い放った瞬間、周りからの視線の種類が変わる。
昨日は転入初日で明星さんも色々と戸惑っていたのか、という考えもあったかもしれないが、明星さんが今はっきりと昨日俺と一緒に出かけたと言ったことで、周りからは。
「え、やっぱりあの二人って付き合ってるの?」
「そうなのかな?知り合いみたいだったもんね」
「え〜、そうなんだ〜」
そんな声がざわざわと聞こえてきた。
「ちょっと来てくれ!」
「はい…?どこに────」
「いいから!」
「は、はい…!」
俺は明星さんのことを人気のない屋上へと続く階段の踊り場に連れてきて、話を始めた。
「あんなこと言ったらクラスのみんなに誤解されちゃうだろ?」
「誤解…ですか?」
「あぁ、付き合ってるって誤解される」
「それは誤解ではなく、わざとしてることです」
「…え?」
わざとって…どういうことだ?
どうしてそんな意味がないどころかマイナスになりそうなことをわざと…?
「競争相手は少ない方が良いですから、今のうちに望宮さんのことを独占できる準備をしておかないと」
「ど、独占って…」
「海外では────」
「普通だって言いたいんだろうが普通なわけないだろ!」
「普通です!」
俺が海外での生活経験がないから、このままでは水掛け論になってしまう。
俺が対応に困っている時、下から声がかかった。
「望宮?こんなところで何してる」
「え?」
俺が声の方に振り向くと、担任の先生である進馬先生が階段を上がってきていた。
「なんだ明星も居るのか、別にもう高校生なんだからお前たちが何をしようと否定はしないが、せめて俺に見えないところでしてくれ、見えるところだと俺の責任問題になるだろ」
とりあえずその緩い考え方を直した方がいいと思う。
「はい!気をつけます!」
「ノリノリで受け入れてるんじゃない否定しろ!別にそんな変なことする気でここに居るんじゃないですって」
俺は先生に弁明する。
「そうなのか?…そうだ、ちょうどいい、今日一限目は自習だから、望宮は明星に校内を案内してやってくれ」
「え…?他のクラスは授業中ですよね?良いんですか?」
「もちろん静かに、な」
「わ、わかりました」
「えっ!望宮さんに案内していただけるんですか!?」
「あぁ、しっかり望宮にエスコートしてもらうんだぞ」
「はい!」
昨日はあんなに俺が奢るのを嫌がってたくせに今はすんなりと俺のエスコートを受け入れるのか…臨機応変というかなんというか。
その後進馬先生が一人屋上に入っていくのを見届けてから、仕方なく俺は明星さんに校内を案内することにした。
「校内デートですね」
「変な言い方をするな」
「こんなのデートですよ!」
「だからデートじゃない」
「昨日のはデートですよね?」
「あれは仕方なくだ」
なんていう会話をしていると、明星さんが足を止めた。
「…明星さん?」
「私、ここ案内して欲しいです」
「え?」
明星さんが立ち止まったのは、保健室の前。
「そこは保健室だ、別に中を見ても面白いものは無いと思う」
「日本では保健室に居ると男女の仲に異変が起きると耳にしたことがあります」
「アニメの見過ぎだ」
「いえ、行ってみましょう!私はその迷信を信じています!」
「自分で迷信って言ってるし!」
そう返答するも、明星さんはもう保健室のドアを開けて、中に入ってしまった。
…中に入らず外で待っていようかとも思ったが、中に先生とか体調不良の生徒が居たら明星さんが何をしでかすかわからないため、俺は中に入ることにした。
「ここが保健室…!」
幸いにも先生とか体調不良の生徒とかは居ないようでとりあえず安心した。
「明星さん、別にここ何も無いと思うし、やっぱり出よう」
俺がそう言って保健室出口のドアに振り返ったところで、俺は押し倒されるようにして保健室のベッドに背中をつけた。
「えっ…?」
改めて状況を見てみると、どうやら明星さんが俺のことをこのベッドに押し倒したようだ。
「保健室…白いベッド、確かに、これは男女の仲も変わるというものですね」
「は、は…!?ちょっと、明星さん?な、何か変なことをしようとか企んでないか?」
俺がそう聞くと、明星さんはニッコリと言った。
「好きな殿方のことをいきなり襲うなんて、海外では普通ですよ?」
そう言っている彼女の目は、まるで本当にそれが海外では普通なのかと思わせるほどに、ただそれに従って忠実に行動しているような、何の迷いも無い目をしていた。
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