その27。「なんか射撃ゲームみたい」

 遂に夜が来た。


 今日が襲撃される予定の日のはずだが……公爵家では何時もと何ら変わりない生活が続いていた。

 強いて言えば、シンシア様が体調を崩したという事で部屋に待機してもらっていることだけだ。


 俺は時期専属執事として、シンシア様と同じ部屋で待機している。

 

「セーヤ、どうやって外の景色が壁に映っているのか教えなさい!」


 シンシア様は、壁に映し出された穴のある場所を、キラキラした眼で眺めていた。

 余程興味深いのか、俺に訊いているのに俺の方を全く見ていない。


 まぁこの世界には大国の王族とかが開く大会くらいでしかこういった物はないので、幾らシンシア様が公爵家の令嬢であっても見たことがないのはしょうがないかもしれないな。

 俺も見たことはないが、多分この世界の物とは画質とか音声とか細かい所はだいぶ違うと思う。

 多分此方の方が性能も良いはずだ。

 魔法は効果とどのようなものかを想像すれば形になるのって凄いよな。


「申し訳ございません、シンシア様。これは僕が作ったんじゃなくて……レベル上げをしている時にお世話になったさすらいの冒険者に貰ったものですので、作り方は分かりません」

「何よ使えないわね」


 そう言って若干落ち込むシンシア様には悪いが、彼女に自分が転生者である事は死んでも伝えないつもりなので、言うわけにはいかない。

 まぁだからといって前世の知識を使わないとは言っていないが。

 そもそも何もしなかったら俺本当に死んじゃうし。


「あれ? ねぇセーヤ……あれって……」

「庭師のハレムですね。こんな夜にどうしたんでしょうか」


 俺は勿論理由まで分かっているが、シンシア様が居る手前、敢えて知らないふりをする。

 ハレムは頻りにあたりを見回し、何かを警戒しているように挙動不審で、明らかに誰が見ても怪しい。


「あっ! あの女が人を私の家に入れたわ!」


 穴から続々と人が出てきた。

 どうやら俺が盗み聞きしていたのはバレていなかったようだ。


「早くお父様に言わないと!」

「恐らく当主様は知っていると思われますよ。そんなことよりシンシア様。少し目を瞑っていてください」

「嫌よ。どうせセーヤが私の見ていない間に何かでアイツらを倒すんでしょ。私も見るわ」


 ……チッこのガキ頭良いぞ……まだ6歳で俺の頭脳に追いつくなんて……。

 決して俺の頭が6歳程度なんじゃない。決してな。


「……では見ているだけで良いのなら……」

「勿論よ! なら早速やっちゃいなさい!」


 ウチのお嬢様は大変お怖いお方だな。

 まぁいいや。


「では早速やっちゃいますね」


 俺は魔力を込めながら魔法ペンを取り出して銃の様に持つと、画面越しの敵に向けて一言。


「———バン」


 チュゥィィィィィィンンッッパァンッッ!!


 とても銃とは思えない奇妙な音を出しながら、狙った敵にビームが飛んで行く。

 そして避ける間も無く襲撃者の1人に当たると、音の割に大きな穴を開けて消えた。


『カハッ……!』

『な、何だ!? 今何が起きた!?』

『固まれ! 決して1人で動くなよ!』


 俺は画面越しに阿鼻叫喚とした光景に冷たい目を向ける。


「そんなことしても無駄なのに———バン」


 再びビームが何人かの襲撃者を巻き込んで爆発する。

 固まってくれたお陰で随分と倒しやすくなったな。


 俺が再び撃とうと狙いを定めていると、突如シンシア様が声を上げた。


「す、凄いじゃないセーヤ! 敵が一瞬で倒れていくわ! ねぇ、これもさすらいの冒険者様に貰ったの!?」

「え、あ、はい」


 さっきは適当に言っていたから、すっかりさすらいの冒険者設定を忘れていたため、思わず吃ってしまった。

 しかしシンシア様は大して気にしていない様で、画面を指差しながら頻りに「早くやって早くやって!」と急かしてくる。


 ……このガキ将来処刑された方がいいかもしれん。

 人が死んでいるのに早くやれって相当頭おかしいぞ。


 俺は我が主の恐ろしい考えにドン引きしながらも、淡々と襲撃者を撃ち殺した。


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