その14。その頃……(三人称)

 セーヤが襲撃者を襲撃前に滅ぼしていた時。


 フレイヤは言われた通りにシンシアが泊まっている部屋に向かっていた。

 

『何故妾があんな弱者を……』


 物凄い文句を垂れながら、だが。


 しかしフレイヤはセーヤと主従契約を交わしているため、逆らうことは基本的に出来ない。

 

 フレイヤはシンシアが泊まっている部屋の扉をゆっくりと開ける。

 扉には鍵が内側から掛かっていたが、フレイヤは鍵を溶かすことによって呆気なく侵入。

 中には窓から何かを眺めるシンシアの姿が。


 シンシアはフレイヤの方を見ずに言う。


「……どうして私の部屋にドラゴンが?」

『全ては主の判断だ。妾は本当は行きたくなかったのだが』


 フレイヤがしれっと言葉を話したことに驚いたシンシアが初めてフレイヤの方を見る。

 

「……貴女話せたのね」

『主に話すなと言われているのでな。人前では話せないのだ』


 妾はどうでもいいのだが……と呟くフレイヤ。

 ドラゴンの姿なのに、若干不服そうにしているのがシンシアには見えた。


「主って誰? まさかセーヤ?」

『うむ。セーヤは強いぞ。今襲撃者を撃退している所だろう』

「それは知っているわ。だって見えているもの」


 シンシアが再び窓の外を眺める。

 気になったフレイヤもそっと窓を覗くと、そこには何やら木の上を見つめているセーヤの姿があった。

 しかし直ぐに木の上から幾つもの影が飛び出すが、一瞬の内にセーヤによって消されていく。


 窓の外を眺めながらシンシアが呟く。


「……あんなに強かったのねセーヤって」

「妾の分身を倒した者だからな」

「!?」


 突如シンシアの視界の隅に輝く銀色の何かが現れた。

 驚いたシンシアが横を向くと、そこには小さなドラゴンの姿はなく、その代わりに白銀の髪を靡かせ、此方を妖艶な笑みを浮かべて見ている1人の美女の姿があった。


「……貴女一体何者? ただのドラゴンじゃないでしょう?」

「うむ。意外と芯のある女子であるな。気に入った。妾は———」


 人化したフレイヤが自己紹介をしようとした瞬間、部屋の中に1人の黒装束の男が入って来た。

 ただ1人、個別に動いていた者だ。

 男は知らない美女がいることに一瞬驚くが、直ぐに標的であるシンシアに狙いを定めて動く。


 その動きはセーヤが撃退していた襲撃者の比ではなく、とても速くて正確な一撃を繰り出していた。

 きっとシンシアが1人か、セーヤと共にいたら間違いなく危険な目に遭っていただろう。

 

 しかし此処に居るのは運が悪いことに世界最強の一体———炎竜王である。


「……失せろ」

「!?」

 

 フレイヤは面倒くさそうに指をパチンッと鳴らすと、その瞬間に男が燃える。

 しかも男以外の全てのものは全く燃えていない。


 その凄まじい力量にシンシアは驚愕する。


 男が完全に消滅すると、フレイヤは再びシンシアの方を向き、月光に照らされた髪を耳に掛けると、



「妾の名はフレイヤ。世界に6体存在する竜王の1柱———炎竜王である」


 

 驚くシンシアを見ながら妖艶な、しかし何処か神秘的な美しさを孕んだ笑みを浮かべた。

 

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