まるでではない。此処は、地獄だ。

それを見届けた者達は――見届けざるを得なかった者達は、異口同音にそう言った。


 夜更けだというのに、空は夕暮れのように朱色に染まり、蒼色との境目はを示していた。


 瓦礫がうず高く積み上げられた廃都市は炎に包まれ、人の肌を灼く熱が余人を近寄らせない。

無数のかばねの中で相対するは二人の少女。

赫橙せきとう蒼青そうせいほむらだ。


蒼き少女が口を開く。

紅羽くれは、どうして?」


問いかけのその言葉とは裏腹に、彼女の顔には諦観のみが浮かび上がる。


「幾度聞けば、気が済むの」

赫き少女は呆れたように返した。


あかりが死んだあの日、私達の道は分かたれたわ」

「それは貴女だって理解しているでしょう? ――耀よう


二者のやり取りの間に、真の意味での言葉はなかった。

あるのは記憶。ただその振り返り。懐かしむ、望郷のみだ。


「紅羽と……戦いたくない」

「えぇ。だからこうして理由を作ってあげたの」

「こんなの……こんなの絶対おかしいよ! 私たちは何も、特別を求めたわけじゃない!」

「ただ、普通に……普通の日常を送りたかっただけ」

「みんなのように放課後に遊んでさ」

「みんなのように、将来について悩んだりしてさ」

「……なんで、なんで紅羽なの?」


沈黙。火種の弾ける、軽快な音。



彼女の返答は端的だった。


するりと、その掌を中空に差し出す。

途端、燃ゆる世界の鼓動は止まり、すべてのは彼女の支配下へと恭しく降っていく。

橙色の瞳は魔性の紫に染まり、世界を冷徹に見定めた。


「其は世界への叛逆」

「灼ける魂の号哭」

「燃え、燃え、燃え尽きろ」

「三千大千世界尽く、灰塵のたきぎと焚べて」


静かな焔が渦を成し、ただそうあれかしと彼女の掌へと収まっていく。


”」


その祝詞のろいに合わせて、象られるは彼女のカタチ。


「欲するは――””」


ただ一振りの刀身。人斬りのつるぎ


「我が実存、ここに来たれり」


水面を伝播する波紋のように、彼女の言葉は世界に伝う。


「『孵化インキュベーション』」


くうを断ち、くうを絶つ。ただそのためだけの紅羽くうの刀。


「――妖刀、緋々色釒ひひいろかね。私のよ」


そのに、蒼はひどく顔を歪めた。

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