The ANTHEM - Interlude

十卜或斗

とある█▄▀▃の独白

この世界は、粒で出来ている。


かつて、アインシュタインは一つの世界を作り上げた。

いや……かつて”世界だったもの”の表面テクスチャを塗り替えたのだ。


量子力学と呼ばれたそれは、我々の世界を象る基盤でありながら今なお謎に包まれている。その原理、その定理、その条理。

闇に包まれた過程は、しかし裏側の世界。叛逆の帳の内側であれば。

天才ノイマンと呼ばれる彼らによって、再度塗り替えられ得る代物だった。



 歴史は、可能性を殺し続ける。

それは単に資料に模られた歴史だけを意味せず、思慮に紡がれた個人史も然りだ。

人は、或いは全ての存在は、常に選択を行っている。

意識的に、無意識的に。

 その選択の道程は、節の数ほどに分かたれ続け、指数関数的に未来の可能性が広がり続ける。選択の枝だ。

ある一点にて交わった枝同士は、その規模に応じて果実を生む。

可能性の交差する世界。並行世界ステージと、彼が呼ぶ現象。

 そうして、は無限に広がり、無限に分かたれ、無限を征く可能性の海と化す。

無限の可能性インフィニティ・コード


果たして、実に。

そんなご馳走を、彼らは見逃すはずなども無いだろう。

あの、背信の名を与えられた超常。

レネゲイド・ウィルスが。



 世界は粒だ。同時に波だ。

量子と呼ばれる世界の表面テクスチャは、観測られた時だけ粒に成る。

そして、何をも知らねば波として流れ続ける。可能性の海の中を。

 であるからして、我々が歴史と呼んだその営みも、可能性の海を揺蕩う波のまにまに流れ行く。流れ、流れ、観測られた瞬間に姿を表す。確定する。

 それまでの全てありえた可能性を、虚空に投げ捨て。ただ一意に定まる歴史と成り果てるのだ。

 だが、考えても見て欲しい。

もし、この世の全てが観測られていたら、並行世界ステージなど存在し得ないだろう。我々が観測る世界に波の残骸などなく、そこに在るのはただ無限の粒でなければおかしいのだ。

 故に我らは思い知る。自身の視界を。その狭さを。その先の行き止まりを。

かの愚者は、世界全てを観測とどける視界を求めた。

かの外来種は、世界そのものに眼を宿そうと試みた。

かの博士は、世界を超えるために根源的な可能性を追い求めた。

 けれど、あらゆるそれらの試みは、世界のによって全て虚数空間へと投げ込まれる。

あり得なかった可能性。成就しなかった世界線。

 は自ら自身を定義し、最も揺るぎない可能性が交差する地点を定礎として幹を伸ばし続けている。


 世界が波であるからして、波の性質を知っているだろうか。

。その性質を。

 世界は、波だ。可能性の波だ。

故に、逆位相の世界そのものと干渉した時、その世界はカタチを失い、虚数のそんざいしない世界に投げ捨てられる。

 そうして世界は無限の広がりを失い、有限の幹の周囲でのみ存続を許される。

基本となる世界ステージ。そこから逸脱しすぎていない、歴史の分岐点で済まされる世界のみが許される。


 世界を支える定礎の繋がり、巨大な可能性の樹は、今もなお可能性に広がり、可能性を切り落とし続けている。

未来永劫、終わることのないこの営みを、人類はカミと呼び。

私たちはこう呼んだ。


――中心教義セントラルドグマと。



 だから、キミが現れた時、私は心底驚いたんだ。

存在してはならないキミが、確かに存在し続けている事に。

いつ、無垢がキミをにしても、おかしくはないというのに。


ねぇ、大賀美 ▉▀▄▀。ドグマの子。


キミの欲望ネガイを、私に教えてくれないか。


これから虚数空間へ捨てられる老人への、せめてもの手向けだと思ってさ

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