第242話 今日の京都の恋模様⑩


 晩ご飯は豪華だった。

 ホテルの食事といえばこんなもんなのかもしれないけど、それでも見慣れない豪華さにテンションは上がる。


 夕食を終えるとお風呂の時間が待っていた。


 大浴場というだけあって、本当に大浴場だった。二クラスが合同で入浴をすることになっていたけど、全然窮屈ではないくらい。


「ああー気持ちいい」


 湯船に浸かり、言葉を漏らす。

 お風呂は嫌いじゃない。なんというか、その日の疲れが流れて落ちていくような気分になるからだ。


「おい、志摩も来てくれ」


 洗い場の方から樋渡の声がしてそちらを見る。なんか数人が対立するように向かい合っていた。


「なんだよ」


 ゆっくりさせてくれよ、と思いながら俺は樋渡のところへ向かう。よく見ると、さっきやらかした吉岡大原コンビや、ここには木吉もいた。伊吹はいない。


 向かい合っているのは二組の連中だろう。知らない顔が並んでいた。つまり、クラス別に対立しているような構図だ。

 

「志摩は結構凄いぞ。奥の手と言っていい」


「ならうちも秘密兵器を投入しよう」


「そろそろ何してるか教えてくれ」


「チ◯コバトルだよ」


「は?」


 樋渡の口から放たれた言葉が、高校生男子の口から放たれるに相応しくないもので、思わず聞き返してしまう。


「いや、だからチン◯バトルだよ」


「説明してくれ」


 俺の言葉に前に出てきたのは木吉だ。

 

「説明しよう。◯ンコバトルとは両クラスから代表者を選出し、一人ずつ同時に見せる。チ◯コをな。そして大きい方が勝ち、小さい方が負ける。それを繰り返し、結果的に勝数が多いクラスが勝つ」


「くだらないよ。小学生でもやらないぞ」


「小学生はまだ比べるほどじゃないからな」


「そういう意味じゃない」


「とにかく出てくれ。これはクラスのプライドと男の尊厳を賭けた戦いなんだ!」


「この勝負になんの意味があるんだよ!?」



 *



 ちゃぷん、と。


 足を湯船に入れると波紋が広がる。


 少し熱めのお湯に肩まで浸かり、わたし、日向坂陽菜乃はふうと息を吐いた。


「気持ちいい〜」


 あっという間の一日だったな。

 もう三日あるうちの一日が終わっちゃうんだ、と思うと少し寂しく思う。


「隣、いい?」


「あ、うん」


 断ってきたのはくるみちゃんだ。

 こうしてまじまじと人の体を見ることはこれまでなかったけど、やっぱりくるみちゃんって細くて綺麗だな。でもちゃんと女の子としての膨らみはある。


 海に行ったときなんかに見る機会はあったけれど、一糸まとわぬ姿を見ると本当に感心する。というか、感動する。


「あんまりまじまじ見ないでよ」


「わ、ごめん。スタイルいいなって思って」


 くるみちゃんは前を隠しながら湯船に使った。


「陽菜乃ちゃんがそれを言うんだ?」


 お返し、と言わんばかりにくるみちゃんがわたしの体を凝視してきた。これは確かに恥ずかしい。

 わたしは隠すように身を捩り、体の向きを変えた。


「あたしからしたら、陽菜乃ちゃんの方が羨ましいよ。全男子を惚れ惚れさせるスタイルだよね」


「そ、そんなことは……」


「覗こうとしてた男子の中で、陽菜乃ちゃん目的の人は何人いたんだろ?」


 からかうように言ってくるので、ここは負けじと反撃してみる。


「それを言うならくるみちゃんもだと思うよ。結構、男子から人気あるしその大きな胸は一見の価値ありだと思うよ?」


 ぐぬぬ、とくるみちゃんは胸を抑えて黙った。どうやら引き分けみたい。


「二人でサービスシーンの作成ありがとうなところだけど、私も失礼するよ」


 そう言って梓も入ってくる。

 梓はわたしやくるみちゃんと違って胸が大きかったりはしないけど、その分アスリートみたいな細さがある。肌も綺麗だし、それも羨ましい。


「このあとってもう寝るだけだっけ?」


 気を取り直して、という調子でくるみちゃんがそう言った。


「レクリエーションがあるよ」


「そんなのあるんだ」


 へえー、とくるみちゃんは相槌を打ってくる。


「なにするの?」


「そこはわたしも詳しく知らないんだ」


 梓の質問にわたしはかぶりを振った。

 一組から三組、四組から七組と二日に分けて行うらしいんだけど。だから、ちょっと大掛かりなものなのかな。


「レクが終われば一日目も終わりか」


「終わらせるかどうかは、あたしたち次第だけどね」


 梓の呟きにくるみちゃんがウキウキした声で言う。修学旅行の夜なんて、寝ないでお話みたいなのが普通だもんね。


 まだまだ終わらないよね。



 *



「風呂くらいゆっくり入ればいいのに」


「悪かったよ。ちょっとテンション上がっちまって」


 あはは、と樋渡が申し訳無さそうに言う。海のときもそうだったけど、テンション上がりすぎると極端に知能低下するよな、こいつ。


「けど、今回の勝利は確実に志摩のおかげだぜ」


「嬉しくないわ」


 風呂から上がり、体を拭く。

 就寝前の服装に決まりはない。部屋着を持ってきてはいるけど、ホテルが用意した浴衣を着てもいいらしい。


 せっかくだし浴衣着ようぜ、という樋渡の誘いに乗って俺も浴衣を着ることにした。

 こんなときしか着る機会ないしな。


 まあ、あとでレクリエーションがあるから、結局着替えることになりそうだけど。


 こういうのは雰囲気が大切だよな。


「俺、ちょっと飲み物買って帰るわ」


「おー」


 せっかくだしジュースでも買って帰ろう。

 というわけで、樋渡と別れて自販機が置いてある場所を探すことにする。

 館内を把握していないのでどこにあるか分からない。ちゃんと確認しておけばよかったな。


 などと思いながらとりあえずロビーの方へ向かうことにした。


 そのときだ。


「だーれだ」


 突然視界を塞がれ、もう何度目だよというくらいに繰り返されたあのゲームがまたしても行われようとしていた。

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