第238話 今日の京都の恋模様⑥
太秦映画村。
太秦と書いてうずまさと読む。
京都にある施設で中には昔の日本の情景を模して造られた町並みがあったりする。
その他にもお化け屋敷があったり、戦隊ヒーローの等身大フィギュアが置かれていたりする。
他にも何やら様々な施設があったりしていろいろと楽しめるらしい。
さすがにこの中をずっとクラスで移動するというのは逆に迷惑になりかねないのでここからは一時的に自由行動となった。
俺たち二年三組がここを選んだというだけで、他のクラスは別の施設に行っているらしい。七クラス全部がここに来たら生徒で溢れかえるからな。
「あ、見てお侍さんいるよ!」
それこそ、まるで時代劇の中にでも迷い込んだと思わせる町並みの中に足を踏み入れたとき、柚木がそんなことを言った。
「侍っていうよりは武士かな」
樋渡が付け足すが、違いが分かんないよ。
彼女が指差す先には確かに侍……ではなく武士がいた。
和服で、腰には刀が差してあって、そして見事なちょんまげ。
「おや、見ない顔でござるな」
そんな俺たちに気づいてか、武士が話しかけてきた。こういうことしてくるんだな。
「お主等は、時折現れる未来の人間でござるか?」
どういう設定なんだろう。
俺は戸惑ってしまう。
が。
「そうなんです。修学旅行で未来から来ちゃいました」
こういうときにするりと相手に合わせられる空気読みの達人、柚木くるみがすぐさま調子を合わせた。
さすがだ。
「うむ。楽しんでいくといい」
「あの、一緒に写真撮ってください!」
どうやら本物の生武士にテンションが上がっているらしい。
まあ、本物かって言われたら難しいところだけどそこは目を瞑っておこう。
俺はテーマパークに行って着ぐるみを指差しながら『中の人大変だよね』とか、夢のないことをわざわざ口にする愚か者ではないのだ。
柚木の言葉に武士は「写真?」と眉をひそめた。設定がしっかりしてるなあと感心していると、武士はああと手を叩く。
「あの不思議な四角いものでござるな。時折、皆のようにここへやって来た未来から来た者達が持っておる」
「ですです」
女子三人が「やったー」と言いながら武士に寄っていく。俺たちが写真を撮ることになったけど、柚木がこのスマホで撮ってと渡してきた。
なんかそういうカメラアプリとかあるんだろうな。よく分からんけどお肌がきれいになるとか。別にアプリ使わなくてもきれいじゃん。
などと思いながら「はいチーズ」とシャッターを切る。
はいチーズってなんだよ、ピースじゃないのかよと思いその意味というか由来を調べたことがあった。
日本で言うところの『一足す一は?』で『にー』と答えるときに笑顔になるのと同様に、『チーズって言って?』『チーズ』という流れで笑顔になることが由来らしい。
そのチーズが日本に渡った際にはいチーズという言葉が出来上がったんだとか。
へえー、となったのを覚えている。
そのあと男子も武士様と写真を撮り、「この後も楽しむと良いぞ」という言葉を残して侍は行ってしまった。
けどすぐ別のグループに声をかけられていた。大変だなー、武士も。
「これいつくらいの時代なんだろ」
「時代劇だし江戸とかだろ」
前を歩く柚木と樋渡がそんな会話をする。その後ろを俺と陽菜乃がついて行って、さらに後ろに秋名が……。
「あれ、秋名は?」
「え?」
後ろにいるはずの秋名がいない。慌てて周りを確認するがやはりいない。どこに行ったんだろう。
「はぐれたのかな?」
「電話してみたら?」
樋渡に言われて陽菜乃がスマホを取り出す。耳に当ててすぐに話し始めたので電話には出たようだ。
「うん、うん、わかった。はーい」
何度か相槌を打って陽菜乃は電話を切る。
「なんだって?」
「なんかよく分かんないけどむふふなものを見つけたから後ほど合流するんだって」
「ほんとによく分からんな」
「ほら、梓って新選組とか好きだから」
「初情報なんだけど」
けど、まあ、想像はできるか。
あんまり見ないけどオタクはオタクらしいし、女子だからイケメンがいっぱい登場するアニメとかも観るのかな。
時代的にはここと合ってるから、なにか興味があるもの見つけたのかな。
「なんか意外だな。テンション上がって一人行動って」
樋渡も少し驚いている様子だ。
それに陽菜乃と柚木が顔を見合わせてから返す。
「けど、たまにあるよね。本屋行ったときとか」
「んー。ふらーっと消えてくことはあるかも。そんでいつの間にか戻ってきてる」
「そうなんだ」
女子二人の前だと、また俺たちの前とは違った一面を見せてるんだな。ある程度気を許しているから、ということならそれは何となく嬉しいことだ。
「梓もああ言ってるし、とりあえず四人で次のところ行こっか」
陽菜乃が言う。
次のところ、とは言うけど別に次にどこ行こうとかは決めてなかったはずだけど。
「次に行くとこ決めてんのか?」
樋渡も同じ疑問を抱いてくれていた。良かった、俺だけが仲間外れじゃなくて。
「うん。さっき三人で話してたんだけどね」
そう言ったところで柚木が足を止める。そして、じゃーん、というふうに目の前の建物をアピールしてきた。
どうやらここが目的地だそうだ。
「……」
「……」
俺と樋渡は顔を見合わせる。
そこにあったのは古びた建物。イメージでいうのならばお化け屋敷とかそういう感じ。
「なんかね、『史上最恐のお化け屋敷』なんだって!」
「……まあ」
「書いてるもんね」
というか、お化け屋敷だった。
「これから、ここに入りたいと思います! 梓は『私はいいからみんなで楽しんできて』ってラインがあったので!」
秋名のやつ。
これが嫌だっただけなのでは?
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