第215話 休日の二人(デート)③
幸い、調べた中にハンバーグのお店があったので、そこに向かうことにした。
「調べててくれたの?」
「まあ、一応」
「隆之くんってそういうことできるんだね」
え、それどういう意味?
感心してる? してくれてる?
それそのまま受け止めたら、そういうことできないと思ってたっていう意味になるんだけどそういうこと?
「あ、ちがうよ? 変な意味じゃなくて、素直に感心してるの」
「そ、そう?」
俺の思考を読んだのか、陽菜乃が慌てて訂正してくる。その慌てっぷりが逆に怪しさを感じさせるのだが、気にしないでおこう。
「うん。なんかね、そういうの嬉しいなって」
ふふ、と笑いながら陽菜乃が柔らかな声で言う。
「嬉しいの?」
「だって、ちゃんと考えてくれてるんだなって感じるでしょ?」
「そっか。じゃあ、調べてよかったよ」
ありがとう、梨子。
帰りになんか美味しそうなスイーツ買って帰ってやるからな。期待して待っててくれ。
そんなわけで歩くこと少し。
やってきたお店はお昼時ということもあって、大盛況だった。
結構並ぶことになりそうだし、なんなら店を変えるのも一つの手段か?
「結構並んでるね。映画に間に合うかな?」
「映画までは時間あるから大丈夫だと思うよ。けど、待ち時間ありそうだけど大丈夫? なんなら店を変えてもいいけど」
「わたしは大丈夫だよ。隆之くんと一緒ならたぶん、あっという間だし。隆之くんは並ぶのいや?」
俺は陽菜乃の言葉にかぶりを振る。
気持ちは同じだから。陽菜乃と一緒ならきっとあっという間に時間は過ぎていくに違いない。
「俺も気にしないかな。多分、あっという間だし」
ということで俺たちは列の最後尾に並ぶことにした。
*
あっという間だった。
陽菜乃との時間が楽しかったというのはもちろんだけど、普通に回転が速いのかサクサク列が捌かれていって気づけば俺たちの番が回ってきたのだ。
店内に入ると空腹を刺激するいいにおいのせいでお腹がきゅうと鳴いた。
隣ではぎゅるるると悲鳴を上げていたけど。
「な、なんか誰かめちゃくちゃお腹空いてるのかなあ?」
棒読みで陽菜乃が苦しまぎれの誤魔化しを口にするけど、さっきの音は間違いなくあなたのお腹が鳴らしてましたよ。
焦ったような表情がもう全部白状してるんだよなあ。
せっかく隠そうとしてるんだし、触れるのも野暮かと思い誤魔化されることにした。
「誰だろうな。まあ、こんなにおいしてたら誰でもお腹くらい鳴るだろうけど」
「だ、だよね〜」
四人がけのテーブルに案内される。
置いてあったメニューを開く。ハンバーグを中心にトッピングやサラダ、サイドメニューが書かれていた。
ランチメニューがあるらしい。
ハンバーグにサラダ、ライスがついてお手頃価格。これでいいか、と思い陽菜乃の方を見ると彼女も決めたらしい。
「俺はランチメニューにしようかな」
「わたしも。目玉焼きを乗せるか悩んでるんだよね」
「悩むくらいなら乗せればいいよ」
「だよね」
るんるんと鼻唄でも口ずさみそうな上機嫌っぷりで陽菜乃が店員さんを呼んで注文を済ます。
料理が届くまで、暫しの待ち時間だ。
「もうすぐ修学旅行だね」
話題を振ってきたのは陽菜乃だ。
来月に控えている修学旅行。俺たちにとってはホットなトークテーマである。
「陽菜乃は京都、行ったことある?」
「うん。何度かね。でも小さいときだからあんまり記憶はないんだ。隆之くんは?」
「俺は初めてだな」
中学の修学旅行も違うところだったし。
わざわざ旅行で行くほど興味が惹かれるものはなかったし、そもそも旅行に行く友達いなかったしな。
家族旅行は小さい頃は何度か行ったけど、京都は行き先には上がらなかった。
「なにか気になるところある?」
「んー、いや、どうだろ」
ぶっちゃけ特にないんだよな。
寺とか神社とか見てもなにも思わないタイプの人間だと思うから、わざわざ行きたいとは思わないし。
いざ目の前にすれば感動とかするもんなのかな。
「陽菜乃は?」
「わたしはね、伏見稲荷大社に行ってみたいんだ」
「なんだっけそれ」
聞いたことはある名前なので、きっと有名ではあるに違いない。けど、その詳細を覚えているほどの興味は残念ながらなかった。
「千本鳥居があるとこだよ」
「ああ」
なんか赤い鳥居がずらーっと並んでるところか。確かにあれはちょっと見てみたいかもしれない。
けど。
「ルートに入ってたっけ?」
「んーん。だから、自由行動のときに行かなきゃかなって」
修学旅行は全部で三日間。
一日目はクラスでの移動。二日目は班での行動。三日目に関しては完全な自由行動となっている。
そんな話をしているとじゅうじゅうと音を鳴らすハンバーグが運ばれてきた。
「鉄板が熱くなっているので気をつけてください」
一言添えて俺たちの前に料理を置いた店員さんは戻っていく。
普通にお皿に乗せてるのより美味しく見えるのは不思議だ。鉄板で熱されている分、冷めるまでが長いのは間違いなくメリットだが。
「食べよっか」
きらきら瞳を輝かせる陽菜乃がナイフとフォークを手にしながら言った。
だらしない口元からはよだれが垂れそうになっている。
エサを前にして待ての命令を下されているわんこのようだ。
「そうだな」
とはいえ、このハンバーグを前にして食べるのを我慢しろという方が難しいん。
いただきます、と言ってから俺たちはハンバーグに手を付ける。
陽菜乃は丁寧にナイフでハンバーグを一口サイズに切ってから、それを口に運ぶ。
ただ、一口サイズがちょっと大きいですねえ。
「おいひぃ」
もぐもぐしながらそう言った陽菜乃は幸せそうな顔をしていた。食べてるときの顔が可愛いって反則だと思うんだよね。
ずっと見てられる。
が。
「……んまい」
ハンバーグが冷めるので、見るのもほどほどに俺も食べることにした。
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