第211話 デートってなんだろう②
約束通り、朝食を終えた俺は梨子と映画を観るためにイオンモールへと向かった。
休日のイオンモールは相変わらず人が多い。これを見ると、この前平日に来たときが快適だったなと改めて思わされる。
映画館に到着したのは上映開始の二十分前だった。昔は窓口だったけど、今はチケットの購入も機械でやることがほとんどだ。
座席とかゆっくり選べるからこっちのがいいんだけど。
「どこがいいんだ?」
梨子が観たいと言った映画なのだから、梨子が座席を選ぶべきだ。ここで俺が選んで、万が一よくない座席だった場合どんなケチをつけられるか分からんからな。
「こことか」
梨子が指差した場所の座席を選ぶ。
人それぞれ、こういうときに優先する条件は異なるだろう。
俺は真ん中の座席に座りたい欲よりは、周りに人ができるだけいない座席がいい欲の方が強い。
が。
梨子は真ん中辺りで観たいらしい。
周りは人でびっしり埋まっている。仕方ないけど我慢するか。
チケットの購入を済ますと、少し時間が空いてしまう。トイレとかは入る直前にしたいしな。
などと考えながら劇場内をぷらぷら歩いていると、ふとある映画のポスターが自然に入り足が止まる。
俺が停止したことに、数歩先で気づいた梨子がこちらに戻ってくる。
「なに見てるの? お兄こんなの興味あったっけ?」
「いや。あるかないかで言うなら別にないんだけど」
これ、陽菜乃がこの前気にしてたやつだな。ポスターに書いてある公開日を見ると、数日前だった。つまり、すでに公開しているのだ。
「『天使に愛の告白を』だっけ。これ、けっこう面白いって話題になってたよ」
「そうなのか。梨子は観たいと思わないのか?」
訊くと、梨子は品定めするように腕を組みながら改めてポスターをまじまじと見つめる。
「誘われれば観に行くけど、自分からはちょっと違うかな」
「話題になってたのに?」
「うん。私は私の感性を信じるから」
言うこと格好良いな、おい。
「そんなことより、ポップコーン買ってよ」
売店コーナーを指差しながら梨子が言う。
「なんで」
「なんか映画館に来たら食べたくなるの。一人で一つは多いから、一つ買って兄妹仲良く一緒に食べようよ。いま流行りのシェアってやつ! あ、もちろんお兄の奢りでね」
絶対最後のが本音じゃん。
最後の一言のせいでそれまでのセリフ全部嘘っぱちに聞こえるじゃねえか。
「仕方ないな」
「わーい。味はキャラメルね。キャラメル一択だから!」
「ばか言え。ポップコーンといえば塩! それ以外は認めないんだよ!」
キャラメルだ塩だと言い合いながら列に並ぶ。あまりにもヒートアップしたせいで周りの人に笑われてしまった。
見てみるとコンビセットみたいなのがあった。どうやら二人で食べるようのものらしく、ポップコーンは味が二つ選べて、ドリンクが二つついてくる。それで値段がお得になっており、あれを頼む以外の選択肢はない。
ポップコーンを手にして劇場に入る。公開して間もないからか、スクリーンは比較的大きめのところだった。
どうせなら大画面で見たいもんな。
イスに座って一息ついたところで梨子が立ち上がる。
「どうした? 急にホームシックか?」
「そんなわけないでしょ。トイレ!」
言って、梨子はてててと行ってしまう。入る前に行けば良かったのに、思いながら梨子の背中を見送る。
上映まではまだ時間がある。
映画といえば本編前には他の映画の予告編が流れるけど、あれはあれで楽しいものだと俺は思っている。
うわー面白そう観に来よってなる。結局来ないんだけど。
劇場内はまだ明るく、周りには人がポツポツいる程度。梨子が帰ってきたら俺もトイレ行っとくか。
などと考えながら、俺はスマホをポケットから出してシュッシュといじる。
「おまたー」
すると梨子が帰ってきた。
スッキリしたのか上機嫌だ。まったく我が妹ながら単純なやつだ。
「俺もトイレ行っとくわ」
「入る前に行っとけばよかったのに」
「その言葉そのまま返すわ」
*
映画が終わり、ぞろぞろと劇場から人が出ていく。あちらこちらですでに感想の言い合いが始まっていた。
確かに面白かった。
正直、ちょっと舐めていたところはあったけど、想像以上に楽しめたな。
自分一人では確実に観に来ていなかったので、これは梨子に感謝してもいいかもしれない。
単純に一緒に行く友達がいなかっただけなんだが、俺は映画は行くとしても基本的に一人だった。
だから観たい映画しか観ることがなかったけど、たまにはこういうのも悪くないな。誰かの興味ある映画を観るみたいな。
終わってから感想を言い合えるのも人と観る醍醐味だ。俺なんていつもツイッターで感想検索するしかなかった。
「面白かったか?」
「うん。お兄は?」
ご機嫌な様子の梨子が笑顔で頷く。これは相当に楽しんだっぽいな。
「想像してたよりずっと面白かったわ」
「でしょー? 感謝してよ」
なぜか得意げにない胸を張る梨子。
感謝を求められると素直にしたくなくなるのが捻くれ人間というものだ。
「なんでだよ」
くふふ、と梨子は笑いながらさらに続ける。
「お礼にお昼ごちそうしてくれてもいーよ?」
「なんでだよ」
「なににしよっかな。奢りとなるとお肉とか食べちゃおっかなー」
「一言も奢るなんて言ってないぞ」
もちろん奢らされた。
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