第203話 祭りのあと③
クラスメイト全員が集まったところで、受付を済ませて中に入る。
三十人近い人数が行うので八レーンも使うことになったそうだ。それでもまだまだレーンがあるところ、ここは大きい施設らしい。
到着するや否や、木吉がこういうイベントではお約束と言わんばかりに勝負を提案してきた。
親切にくじまで用意してきたらしく、そこまでされると断ることも躊躇ってしまう。
まあ、誰もそんなことはしないだろうけど。
迷惑をかけた、ということもあってか今回の打ち上げは全て木吉を始めとした今回やらかした組が仕切っていた。
そうして四人ずつのチームが出来上がる。
こういうとき、だいたいあまり絡んだことのないクラスメイトと一緒になったりする。
文化祭お疲れさまのテンションで仲良くなりましょうという意味なんだろうけど。
はてさて、俺のチームはどんな生徒が集まっているのだろうか。
陽菜乃か、秋名か、樋渡か、柚木か。一人くらい仲良いやつがいてくれると助かるんだけど。
「ウェーイ! 主役くんじゃんサイコー」
最悪だ。
全然テンション合わなそうなやつが同じチームっぽい。
クラスのムードメーカー兼今回の打ち上げ幹事の木吉大吾が親しげに肩を組んでくる。
なんで陽キャはすぐに肩を組んでこようとするの。ほんと、もうちょっと距離感測ろ?
「おー、志摩が同じチームかー」
そう言いながらやってきたのは堤さんだ。今回の文化祭でまあまあ関わることの多かったお相手だ。
そして最後の一人は。
「よろしくー」
秋名だった。
堤さんと木吉とも上手い具合に合わせている。さすがと言う他ないな。つい忘れてしまうけど、秋名もめちゃくちゃ友達多い組なんだった。
「堤ちゃんはボウリングどんなもん?」
「んー、まあまあかな。友達とたまにするくらい。アッキーは?」
「多分、堤ちゃんよりちょっとできないくらい。そんなに来ないしね」
秋名があだ名で呼ばれていることに珍しさを覚えていると、秋名がこちらを恨めしそうに睨んでくる。
なんで俺が睨まれないといけないんだよ。
今度、アッキーとか呼んでみたらどんな顔するだろう。
「志摩は?」
堤さんが俺に訊いてくる。
もちろん、友達のいない俺はボウリングに来る機会なんてなかったわけで、経験なんてほとんどない。
「子供のとき以来だから期待しないでくれ」
「がんばれよー男子ぃー」
堤さんが脇のあたりをちょいちょいとつついてくる。そこ弱いからやめてくれ。
俺は体をくねらせて避けようとするけど、なかなか彼女の攻撃はやまない。
「そういうわけで、頼んだよ木吉」
「あんたにかかってるぞ、木吉!」
「そんなプレッシャーかけられると困るぜ」
そう言いながらもボールを手にして前へと進む木吉。どうやらトップバッターを務めるらしく、やる気が伺える。
負けたら罰ゲームがあるそうで、皆それぞれやる気の炎を燃やしている。
木吉の他には樋渡や柚木、他にも体育会系の奴らが出ている。初っ端から点数を稼ぎに来てるな。
ガコンガコンガコン。
それぞれがボウリングの玉を投げる。なんであんな勢いでボール投げれるんだろ。
木吉もそうだけどみんなストライク出してるな。あんな簡単に出されると俺でも出せるのかなって思っちゃう。
ちゃっかり柚木もストライク出してハイタッチしちゃってるし。
「ウェーイ志摩クン、ハイタッチ!」
いつの間にか秋名と堤さんとのハイタッチを終えた木吉が俺の前まで来ていて、俺は言われるがままに手を出す。
パチン、とハイタッチする。
ひりひりと手のひらが痛むけど、不思議と嫌な気はしない。
「次、俺投げようかな」
「いやいや、志摩はトリだよ」
「ここはレディファーストだぜ?」
立ち上がろうとしたけど、堤さんと秋名に阻止される。レディファーストの観点からいくなら木吉もダメだろ。
結局。
堤さん、秋名と続けて投げる。可もなく不可もない結果を出して終えられてしまう。
誰もガターを出していないな。
ここで出したらカッコ悪いなあ。
「頼むぜ、志摩クン!」
「男見せろー、志摩ー」
「外したら罰ゲームねー」
なんで俺だけ別で罰ゲームさせられなきゃいけないんだよ、と堤さんの方に半眼を向けてからボールを持つ。
冷静に考えろ。
ボールを投げるだけなんだよ。
別に特別運動神経が悪いわけじゃない。野球とかバスケとかは技術がいるけど、これは本当に投げるだけ。
できないわけがないんだ。
既に投げ終えている陽菜乃の方を見ると、彼女もこっちを見ていた。これでもうカッコ悪い姿は見せられない。
大丈夫だ、志摩隆之。
俺はやればできる人間だ。
くっとボールを持つ手に力を込め、意を決して走り出す。少しの助走をして、俺はボールを放った。
まあ。
結論から言うと、ボウリングって難しいなって思いました。
*
ボウリングが終わるとクラスメイト全員で予約している焼き肉のお店へと向かう。
人数が人数なので、大名行列みたいになっているが、こういうのも見慣れているのか、そもそも興味がないのか、周りの人は気にもしていない。
「隆之くん、全然だったね」
にこー、と笑いながらボウリングの件について追い打ちをかけてきたのは陽菜乃だ。
この子、ナチュラルサドじゃね?
「いや、まあ、あんまりしたことなかったしね」
まっすぐ投げているつもりだった。なのに、なぜかボールは右へ左へと飛んでいった。
堤さんが言うには『投げる瞬間に手首が曲がってるんだよ』だそうだけど、そんなん知らんがな。
曲がってるつもりないから困ってるのに。
周りではパコンパコンとピンが勢いよく跳ねているのに、俺のときだけガコンガコンと勢いよくガターに落ちていくのは辛かったなあ。
「そうなの?」
「これでも一応ぼっち極めてたから。一人で行くほどボウリングに興味もなかったし」
俺が言うと、陽菜乃は「ああ」と得心したように頷いた。ここで変に気を遣って慰めてこないのは彼女のいいところかもしれない。
「ていうか、そんなに見てた?」
「え?」
「いや、全然だったって知ってるってことは見てたってことだろ?」
陽菜乃のレーンは少し離れていたし、あそこから俺を確認しようとするとわざわざ見る必要がある。
俺だって、たまにちらちら陽菜乃を見ていたことは認めているけど、それにしても陽菜乃が上手かったかどうかを判断するには足りない。
「んー、どうだと思う?」
「どうだと思うと言われてましても」
事実から導き出すならば見ていたことになるけど、自分で自分を見ていただろとは何だか言いづらい。
「わたしは、隆之くんが想像してるより隆之くんのことを見てるってことだね」
「そう言われると変に緊張するからやめてほしいんだけど」
今も見られてるのかな、とか考えると普段通りに振る舞える気がしない。
俺のリアクションを見て、陽菜乃はふふふと楽しそうに笑った。
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