第202話 祭りのあと②
花柄のロングスカートに透けたひらひら生地のついたシャツ。いつもとは少し違う雰囲気にどきっとさせられる。
それに比べて俺ときたら毎度ながら同じような服。仕方ないけど。だってファッションってよく分からないんだもの。
陽菜乃と合流したことでとりあえずフードコートを出る。しかし、別にこれといってなにか目的があったわけではないので、行き先は特に決まっていなかった。
「今日はどうしたの?」
てこてこと歩きながら陽菜乃が尋ねてくる。どうしたの、と言われると返答に困るのだけど。
「特に理由はないんだけど」
「理由はないの?」
きょとんとされるとさらに言葉に詰まってしまうな。
これまで、俺から陽菜乃を誘うということがほとんどなかった。あったとしても何か理由があったり、理由をこじつけたりしていた。
けど、今回はマジでない。
強いて言うなら『会いたかった』とかになるけど、そんなん口が裂けても言えやしない。
「そう、だね。ないようなもんだよ」
「隆之くんは理由もなくわたしを呼ぶんだ?」
「あ、や」
そう言われると、何か都合のいい相手だと思ってると勘違いされているように感じる。
そういうわけでは決してないので、不機嫌になってもらっては困るのだが。
「そっか。隆之くんは理由もないのにわたしに連絡するんだね」
なぜか陽菜乃はご機嫌だった。
特に理由があるわけでもなく。
けれど連絡してしまう。
考えてみれば、友達からそう言われると不思議と悪い気はしないな。
陽菜乃に言われるとむしろ嬉しいまである。
理由があるときよりも、何となく嬉しく感じる。
それは俺が彼女のことが好きだからに他ならない。
じゃあ、陽菜乃は……。
なんてな。
「そういうわけだから、特に行きたいところもないんだけど。陽菜乃はどこか見たいお店とかある?」
「んー、そうだな」
指を顎に当てて唸る陽菜乃。
への字に曲がった口がほどかれることはなかったので、見たいお店はなさそうだ。
「特に思いつかないや」
あはは、と申し訳なさそうに笑う。
申し訳ないのはこっちの方なんだけど。こんな無駄な時間を過ごさせてしまっている。
なにか一つ二つプランを練っておけば良かったものを。陽菜乃が来てくれることに浮かれていた。
「適当にぶらぶらしようよ。そういうのもきっと楽しいよ」
「それでいいんなら、俺は大歓迎だけど」
「それがいいんだよ」
そんなわけで特に目的を決めることなく、俺たちは適当にモール内を歩くことにした。
気になったものがあったら、そのお店に入ってみる。特別なにかを買ったりはしなかったけど、あれやこれやと話をするのは楽しかった。
「あ、この映画」
映画館の方にも立ち寄った。
現在上映中の作品がズラリと並ぶ中、ぽつりぽつりと上映予定の作品も紹介されている。
その中の一つを見て、陽菜乃がぴたりと足を止めた。
「気になる?」
「うん。前から気になってたんだ。もっと先だと思ってたけど、もうすぐ公開なんだ」
あるな。
いつの間にか公開が近づいていること。めちゃくちゃ観たい作品は今かいまかと待ち望んでいるけど、ちょっと気になる程度の作品はよくそうなる。
「隆之くんは映画とか観るほう?」
「いや、あんまりかな。テレビでやってたら観るけど、劇場に足を運ぶことはあんまりない気がする」
気にはなるし、観に行こうかなとも思ってるんだけど、気づいたときには上映が終わっている。結局観れず仕舞いというパターンが多い。
「陽菜乃は?」
「わたしも、似たような感じかな。たまーに観に来ることはあるくらい。映画館の雰囲気は好きなんだけど」
「それは分かる。この独特の雰囲気とポップコーンのにおいは映画館って感じがして好きだな」
「そうなの。ポップコーンが食べたくなるんだよねえ」
ポップコーンのLサイズを手にして劇場に向かう陽菜乃の姿が容易に想像できてしまう。
それはそれは、大層可愛い光景であった。
それから、映画館を出た俺たちは家電量販店やら本屋やら、本当に適当にぶらついた。
そうこうしている間に時刻は午後の四時。そろそろ出発してもいい頃合いだ。
「そろそろ行く?」
「そうだね。いい時間だし。ここからだと地下鉄が早いのかな?」
俺はスマホを出して調べる。
今の時代、出発地点と目的地を打ち込めば最速ルートを一瞬で表示してくれるのだから、便利な世の中だよ。
人々はスマホのない生活に戻れるのだろうか。無理だろうな。
「地下鉄っぽいな」
「じゃあ、行こっか」
地下鉄はモールを出てすぐそこにある。この時間になると学校終わりの学生やら主婦やらで人も増え始めた。
電車の中はまばらに席が空いていたけど、二人で座ると窮屈だろうということで立っておく。
今となっては懐かしい場所に到着する。去年の冬にクリスマスパーティーをした場所だ。
柚木と初めて会ったのもここだったな。
ここら辺では一番栄えている場所なのでもちろん人の数はさっきまでとは比べ物にならない。
制服を着た学生が多くを占めているけど、普通に大人の人もあちらこちらにいる。
いい雰囲気っぽい男女がいたりもする。これからデートだろうな。夜景の見えるお店でディナーでもするのだろうか。俺の中の大人のデートのイメージ乏しすぎるな。
「どこだっけ?」
「えっとね、こっちかな」
スマホで今日の予定を改めて確認する。まずはボウリングを楽しみ、そのあとに焼き肉を食べる流れらしい。
というわけで、俺たちが向かうのはラウンドワンだ。偉そうに言うけど利用したことは実は一度もない。
なので、道案内は陽菜乃に任せっきりだった。みっともないなあ、俺。
ラウンドワンの前に到着したところ、クラスメイトがそこそこ集合していた。俺たちはどちらかというと遅めの到着のようだ。
「お、主役二人のご到着だぜ」
「こら、やめろ」
クラスの賑やかし、木吉大吾がイケメン伊吹にツッコまれる。
その言い方にいつまでも慣れないんだけど、これどういうリアクションをするのが正解なんだろうと隣の陽菜乃を見てみる。
「……」
陽菜乃はくすぐったそうにはにかんでいた。可愛い。
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