第169話 友よ、幸あれ②
「到着したんだけど。そうそう、校門入ってすぐのとこ。ああ、ああ。分かった」
校門から入場してすぐ、樋渡が友達に電話をかけた。
「昇降口のところで待ち合わせすることになったわ」
「一緒に行動するの?」
「いや、それは悪いかなって思ってそういうふうにには考えてないんだけど」
「そんなことないよね?」
柚木がこちらを振り返る。
俺も陽菜乃もこくりと頷くだけだった。
知らない人と一緒に回るというのは少しばかり緊張するけど、そうなったとしても樋渡が上手くしてくれるだろう。
「そうなのか」
そうこうしている間に昇降口に到着し、そこでしばし待っていると遠くの方からパタパタと廊下を走ってこちらに向かってくる男子生徒が見えた。
「悪い。待った?」
「いや、全然」
やってきたのは少し長めの髪にメガネをかけた男子。全体的に見てもヒョロっとしていて、つつけば倒れてしまいそうな印象。
良く言えば真面目そうだけど、悪く言うなら地味で、樋渡の友達ときいてイメージしていた印象とは大きく異なる。
「なんかあれだね、想像とちがう」
どうやら似たようなことは思っていたらしい柚木が、ズバリそれを口にした。それを言えるのはさすがと言う他ない。
「まあ、地味めだよな」
「うるさいよ」
ケタケタと笑う樋渡にその男子生徒はビシッとツッコミを入れた。そういうところを見ても、仲の良さは疑いようがない。
制服が学ランということもあって、真面目っぽい雰囲気が増している。生徒会長とかしてそうだ。
「紹介するよ。こっちは沢渡巧。僕の中学のときの友達だ」
「よろしく」
メガネをくいっと上げて沢渡くんは挨拶をしてくれた。
「こっちは右から志摩、柚木、日向坂。僕の高校での友達だ」
「どうも」
「よろしくねー」
「よろしくー」
俺たちもぺこりと挨拶しておく。
「沢渡はこれから時間あるのか?」
「ん? ああ、まああるけど」
「せっかくだし一緒に回るか?」
樋渡がそう提案したが、沢渡くんは俺たちの方を見て「いや、でも」と遠慮がちに言った。
「気にしないでいいよ。せっかくなんだし、一緒に楽しも」
そんな沢渡くんに柚木が明るく声をかける。そう言われて、なお断ろうとする人は中々いないよな。
沢渡くんは「そういうことなら」と一緒に回ることを受け入れてくれた。
とりあえず歩くか、と言った樋渡の提案に乗り、俺たちはあてどなく校内を散策し始める。
教室の入口は催し物用に装飾されていて、それが並ぶと文化祭という雰囲気がすごい。
窓から見えたグラウンドには屋台がズラッと並んでいる。おおよそ、食べ物系の屋台なんだろうけど、あれもクラスがしているのだろうか。
そんなことを思いながら、物珍しげに周りを見ていると柚木が「そういえばさ」と話を切り出す。
「優作くんと沢渡くんってなんで友達になったの?」
ああ、それは気になる。
陽菜乃も同意見なのか、俺と同じように視線を二人に向けた。
「ぶっちゃけ、タイプが全然ちがうから馴れ初めが想像つかないんだよね」
樋渡ははっちゃけるタイプではないけど、タイプ的にはクラスの上位カーストに所属しているイメージがある。
まあ、今がそうなのかと言われるとそんなことないから、このイメージはそもそも間違ってるんだけど。
しかし、沢渡くんは確実にそういうタイプではない。失礼な話、教室の隅で本を読んだり仲のいい友達数人と内々で盛り上がるような感じ。
クラスにおける陰と陽。
タイプ的には正反対に見える二人が、どう仲良くなったのかは気になるところだ。
「あー、まあそっか。こいつ、名前が沢渡だろ? んで、僕は樋渡じゃん」
「うん」
柚木が適度に相槌を打つ。
「名前似てるよなーって感じで話しかけて、それで何となく話すようになったんだよな」
「そんな感じだね」
「え、そんなことで?」
柚木が俺たちの意見を代弁してくれた。けど、考えてみれば、本来きっかけなんてそんなもんなのかもしれない。
俺の場合、陽菜乃は迷子のななちゃんを助けたら、というきっかけだったし、柚木はクリスマスの日にナンパしてるところを助けたというきっかけがある。
そのイメージが強いけど、どちらかというとそれはイレギュラーで。
樋渡なんて、気づけば今の関係性ができあがっていた。きっかけはなんだったろう、と思い返してもピンとこない。
樋渡が距離の詰め方上手いのかな。
「話とか合うのか?」
「んー、どうだろ。想像してる通り、全然タイプが違うからな。けど、逆に言えば僕の知らないことを知ってるってことだから、案外面白いんだよ」
「樋渡が聞き上手なんだよ」
沢渡くんが言うと、樋渡が「褒めんなよ。照れるだろ」と肘でつつく。じゃれ合っている様子は本当に仲良さげだ。
「沢渡はアニメとかが好きでさ。中学のときは口を開けばその話だったよ。中でもギャルゲーの話が多かったかな」
「ギャルゲー?」
なにそれ、と陽菜乃と柚木が俺の方を向いてくる。俺も詳しくは知らないんだけど。
「なんか、恋愛シミュレーションゲームのことをそう呼ぶんだよ。なんでギャルゲーなのかは知らないけど」
はえー、と二人は感心したような声を漏らす。恋愛シミュレーションゲーム、というのはさすがに理解してくれたらしい。
「今もまだやってんのか?」
「まあ、それなりにね」
照れたようにメガネを上げる沢渡くんの様子が少しおかしかった。初対面の俺でさえ何となくその違和感に気づいたのだから、樋渡が気づかないわけがない。
なんというか、照れているというか何かを隠しているというか。そんな感じに見えたのだ。
「なんだ? いま動揺したか?」
「し、してないが?」
めちゃくちゃしてる。
分かりやすいタイプだ。間違いなく隠し事に向いていない。
「いやしてるだろ。別にギャルゲーしてないんならしてないでいいんだぞ?」
「いや、ギャルゲーはしてるよ。そんなくだらない嘘はつかないって」
ギャルゲーはしてる。
そんなくだらない嘘はつかない。
それはもうほとんど自白しているようなものだった。
「なんだよ。あ、まさかあれか? 彼女できたとかか?」
「ち、ちげえし?」
白々しく言うが、俺でも分かるくらいに誤魔化せていない。ギャルゲーはしてるけど、現実の恋愛にも手を出してしまいました、的な。
「なになに恋バナ?」
「詳しくきかせてよ!」
女の子は恋バナ大好きだからなあ。
もう目の前にちらつかせればどんな恋バナにも食いついてくるからな。空腹の鯉かってくらい飛びついてくるのなんなの。
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