第103話 水着を買おう②
アウトレットとショッピングモールの複合施設が最近できたらしく、せっかくだし行ってみるかということで俺たちは電車に乗り、そこに向かうことにした。
電車に揺られ二十分。
そこから徒歩で十分ほどで到着した。
大きさは近所のイオンと同じくらいだろうか。オープンしてから三ヶ月近く経過しているけど、そこへ向かう人の数はまだまだ多い。
おかげで迷うことなく到着した。
「おー、でかいな」
「お前も来たことないのか?」
感心したような声を漏らす樋渡に訊く。
「用がないとわざわざここまでは来ないな」
「おしゃれな服とか買いに来てそうなのに」
「僕のイメージどうなってんだよ。いやまあ、だいたいわかるけど。そろそろ更新してくれないか?」
「考えとく」
「してくれよ」
呆れたようなツッコミを入れてくる樋渡はさておき、と俺は前を歩く女子二人に意識を向ける。
「くるみちゃんは毎年海とか行くの?」
「んー、毎年決まってってわけではないけど、なんだかんだ友達と行ってるかなぁ。陽菜乃ちゃんは?」
「わたしはあんまりかな。子どものときから行ってない」
「意外だね」
「そう?」
「うん。なんか、夏とか謳歌してそうなのに」
「そんなことないよ」
あはは、と二人して笑い合う。
陽菜乃に抱くイメージも分からないでもない。
男子からはモテるし、女子の友達も多い。だから、あらゆる季節を楽しんでいるように思う。
けど、実際はそうでないこともさすがに分かってきた。
いろんな人と仲が良いけれど、校外に出れば結構一人でいることが多く、イメージほど人と遊んではいない。
お呼ばれすれば参加するけど、自分からは踏み込まない。
けど、周りは周りで誘っていいのかなと少し遠慮がちになってしまうのだろう。それも分かる。ほんとに分かる。
「女子の方まじまじと見て、なに考えてるんだ?」
「そんなまじまじ見てないわ」
「いや、見てたぞ。見るにしてもまだ早いだろ。水着着てからのが楽しいぜきっと」
俺はそんなことを言う樋渡の方にゆっくりと視線を移す。軽蔑とかそんな感情はないけど、鋭い目つきをしていたのか樋渡が「なんだよ?」と口にする。
「いや、お前もそういうゲスい考え持ってるんだなと思ってさ」
「僕も男だぞ。そりゃ女子の水着にテンションは上がるし興奮もするさ。しかもそれがあの日向坂と柚木だぞ? 興奮しないほうが失礼だろ」
「爽やかなイケメンフェイスからそんな発言が出てくると脳がギャップに苦しむな」
そうは言いながらも、そういうところが親しみやすさの理由なのだろうと勝手に納得する。
俺とは明らかにカーストが違うような存在の樋渡だけど、結局のところこいつもバカな男なんだなと思わせてくれるのだ。
「お前も興奮するだろ?」
「……そうだな」
そりゃ、まあ、ねえ?
容姿レベルで言えばトップクラスに可愛い二人だ。そりゃ楽しみじゃないなんてことはない。
同年代の女子の水着とか見る機会はこれまでなかったので、そもそもこのシチュエーション自体にテンションが上がってる。
「それで、なんで女子の方見てたわけ?」
「いや、なんていうか、友達と放課後に買い物とか普通に青春っぽいなって思って」
俺が真面目な顔で言ったのが面白かったのか、樋渡はくくっと笑って俺の背中を叩く。
「ばか。っぽいんじゃなくて、これが青春ってやつだよ」
*
とりあえず俺の水着を買いに行くことになり、適当に店を探し回る。
この施設の二階がアウトレットエリアになっているらしく、様々な店が並んでいた。
いくつかスポーツ用品店があったので、前を通りがかった店に入ってみる。
「ここで買えるのか?」
「売ってるとこは売ってるな。ほら」
店の中を進んでいくと、確かにこれからの季節に向けた特設コーナーが広がっていた。
水着の他にもゴーグルやラッシュガードといった関連商品も置かれている。
「どういうのがいいとかあるのか?」
「あんまり派手なのは似合わなさそうだから、黒とかそっち系かな」
「たしかに志摩くん、あんまり派手な服着てないよね」
派手というか、扱いが難しそうな服を着てないだけだ。
ファッションというものを理解していないので、とりあえず見れる格好をコンセプトとしている。
なので、白シャツと黒ジーンズみたいな無難な格好になってしまうのだ。
「でも、水着だと逆に地味なやつの方が目立つぞ?」
「そうなの?」
「ああ。ある程度の柄や色はあった方がいい。周りが派手めな水着ばかりだから、地味なのが悪目立ちすることがあるんだよ。木を隠すなら森というけど、その森の木が全部桜だと一本の緑が目立つだろ?」
「よく分からんけど、ちょっと模様あるくらいの方が周りに溶け込めるっていうのは分かった」
「そういうことだな」
そうなると難しい。
ぱっと見たときに視界に入った黒一色のものがいいのではと思っていたのに。
ていうか、そうでないならなんでもいいな。
「どれがいいと思う?」
「人任せが早いな」
そう言いながらも、樋渡は後ろにいた陽菜乃と柚木に視線を移す。その口元には笑みが浮かんでおり、なんとなーくなにを言い出すのか想像できる。
「せっかくだ。二人に選んでもらおう。そんで、気に入った方を志摩が買えばいい」
「いや、それはどうなのさ?」
なんか選ばれなかった方が可哀想じゃないですかね?
なんてことを思ったけれど、当人たちはそんなこと気にしてもいないようで。
「勝負だね」
「うん」
なんなら、メラメラとやる気の炎を燃やしているように見えるのは、俺の気のせいだよね。うん、そうに違いない。
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