第101話 テストの結果は


 梅雨が明けると程なくして期末テストが始まる。


 一週間前からは部活動が休みに入り、放課後の校内は一気に静かになる。


 図書室で残って勉強をする生徒が増えるので、テスト前というこの時期に限り図書室は大盛況となる。


 なので、もちろん入り切らない生徒もいるので教室に残って勉強をする生徒もいた。


 学校を出て、おしゃれなカフェやマクドに足を運ぶ生徒もいた。


 俺も一週間前からは秋名や樋渡の勉強を、陽菜乃や柚木と協力して見ることになった。


 おかげで自分の勉強にもなり、今回のテストの出来はそれなりに自信があった。


 すべてのテストを終えたとき、そういう気持ちでいられるのは気が楽だ。

 解放感のあまり、教室の中はお祭り騒ぎとなったりしたけど、その中でもお通夜みたいな生徒もいた。


 ていうか、秋名だった。


「大丈夫か?」


「……まあ」


 声をかけると、かろうじて絞り出したような弱々しい返事があった。


「ダメだったの?」


 同じくやってきた陽菜乃が心配そうに秋名の顔を覗き込もうとする。もちろん、机に突っ伏しているので見えはしないのだが。


「……んー、どうだろね」


「しんどいとか?」


「……頭がパンクしそうだよ」


「してないなら大丈夫だろ。もう終わったんだし、これ以上酷使することもないさ」


「志摩は私にだけ特別厳しいよね?」


 ようやく首を回して顔の半分だけを見せ、こちらを睨んできた秋名がそんなことを言ってきた。


「そんなに厳しくした覚えはないと思うけど」


「言い方を変えよう。私にだけ優しくない」


「そんなこともないと思うけど」


「いいや、あるね。志摩はもっと私に優しくするべきだよ」


 言いながら、秋名はぐっと体を起こす。ようやくそれだけの体力が回復したらしい。


「善処する」


「絶対しないじゃん」


 恨めしそうな顔で睨んでくる秋名を、陽菜乃が「まあまあ」となだめている。


 そういえば、もう一人の赤点候補はどうだったんだろうか、と樋渡の方を見やるといつも通りの澄ました顔をしていた。


 テスト前の勉強中に見せたひいひい言っていた顔は珍しかったな。ガチャで言うならあれはURレベルだった。


「どうだったんだ?」


「まあ、みんなのおかげで赤点はなさそうだよ」


「そりゃよかったな」


 ともあれ。


 これで一学期のイベントはすべて終わったことになる。

 あとは夏休みを今か今かと待ちながら、残された授業を受けるだけだ。


 夏休み、か。


「なあ」


「ん?」


 スマホをぽちぽちしていた樋渡に話しかけると、指を止めてこちらを見上げてきた。


「お前、夏休みはなんか予定あるのか?」


「バイトかな。もちろん毎日シフトいれてるわけじゃないから暇な日もあるぞ?」


 このタイミングのこの話題がなにを意味しているのかはおおよそ理解しているようで、俺に言葉の続きを促してくる。


「予定が合ったら、みんなでどっか行かないか?」


「もちろん。それなりに予定埋まってるから、早めに言ってくれよ?」


「女子か?」


「んー、まあ、そうも言うかな」


 変な言い方に違和感を覚えたけど、まあいいかと流しておく。

 

 当たり前だけど樋渡は男子からも女子からも人気がある。なんでこいつ、俺の友達してくれてんだろ。


「面白そうな話してるね?」


 そんな俺と樋渡と話に入ってきたのは柚木だった。

 彼女は彼女でテスト終わりということもあって、スッキリした顔をしている。


「それ、あたしも行っていい?」


「もちろん。と言っても、まだなにも決まってないけどね」


「日にちだけでも決めちまおうぜ」


「それ賛成。あたしも他の子と予定入ると思うから早めに確保しときたいし」


 人気者組は大変だな。

 俺なんて夏休みの予定は今のところ真っ白だし、予定が埋まる予定がない。


 俺もバイトとかしようかなー。


「じゃあ、この後どっか寄ってかない? みんな部活とかあるのかな?」


 秋名の介抱をしていた陽菜乃がいつの間にかこちらにやってきていた。

 一人になった秋名も彼女についてきている。


「シフトは入ってるけど、時間はあるよ」


「あたしも部活は大丈夫。だよね、梓?」


「んー」


 漫研だっけ。

 なんか頻繁に活動をしているイメージはないけど、どれくらいのペースでなにをしてるんだろ。


 漫研といってるわけだし、漫画を描いてるのかな。だとしたら凄いなぁ。


「じゃあみんなだいじょうぶだね」


「あの、俺まだ確認されてないんだけど?」


 どうせ暇ですとも。

 とはいえ、一応抗議だけはしておこう。


「どうせ暇だろ」


 陽菜乃の代わりに答えたのは樋渡だ。


「暇だけど」


「ちがうよ。志摩くんはどうせ暇だからだいじょうぶかって思ったわけじゃなくてね、志摩くんは強制参加だからもういいかなって」


 ちょっと?

 それ結局、聞くまでもなく暇だろと思ってたことについては弁明できてなくない?


 いや、もういいけどさ。


「愛されてんな」


 からかうように言って、樋渡は俺の横腹の辺りを小突いてくる。やめろ、それちょっと痛いんだぞ。


「愛されてんね」


 樋渡の行動を見て、秋名が逆サイドから同じような攻撃を仕掛けてくる。こいつら二人が揃うと絡みが面倒になることがある。


 ああもう鬱陶しい。


「そそそ、そんなんじゃないって!」


「そんなんじゃないのー?」


 慌てて否定する陽菜乃に、今度は柚木がそんなことを言って絡みにいく。

 樋渡や秋名のように、ではないけど柚木もからかうように言っている。

 

「……そ、れ、は」


 そんな柚木の言葉に陽菜乃は言い淀んだ。

 そして、むうっとした表情で柚木を睨むと、柚木はようやくケタケタと笑い出す。


 なんか、知らない間に二人が仲良くなっている。


「面白くなってきたな」


「ほんとそれ」


 俺を挟んで、樋渡と秋名がくすくすと笑いながらなにやら楽しそうに同意している。


 なんか、俺以外の奴らが俺を除いて盛り上がってやがる。


 仲間外れとかよくないと思うなぁ。

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