第50話 今年の終わりに君を思う【お悩み編】


 クリスマスが終わって、年末を迎えるこのゆったりとした空気感はきらいじゃない。


 わたし、日向坂陽菜乃はその日、家でだらだらと過ごしていた。

 まもなく年が明ける。

 新しい一年が始まろうとしている。


 つまり、今日は大晦日である。


 昨日までは友達と遊びに行ったりもしたけれど、一年の終わりくらいは家でゆっくりしようと思ったのだ。


「おねーちゃん」


 最近は遊びに出ることが多かったので、ななが寂しがっていた。今日一日くらいは相手をしてあげないと。


「どうしたの?」


「おなかすいた」


「あー」


 両親はでかけているので、家にはわたしとななの二人だけ。お昼ご飯は食べたものの、時計を見るといつの間にかおやつを欲してくる時間だ。


「ちょっと待っててねー」


 ななをリビングに置いて、キッチンへと向かう。棚にななのお菓子を溜めているはず。


 ガサゴソといじり、お菓子を取り出す。それをお皿に入れてななに差し出すと、いつものように黙々と食べ始める。


 ああだこうだとうるさいななも、なにかを食べているときは静かになってくれる。


「……」


 さてさて。


 そんなことはさておき。


 わたしはここ数日、悩んでいることがあった。


 友達とはなんなのか、ということについてだ。

 そんなもの考え出すとキリがないし、十人の人がいれば十個の答えがあるような問題だけれど、それでもわたしは考えてしまう。


 そう、考えてしまうのだ。

 考えないようにしようと努めても、別のことを考えていても、ふとしたときに頭の中をぐるぐると駆け巡るのはその問題だ。


 というのも。


 クリスマスのあの日、わたしと志摩くんは確かに友達になった。

 友達になろう、と宣言した時点で友達なのかと言われたらそれも疑問だけれど、それでもわたしたちは確かに口にした。


 そもそも、距離感の話をするならば十分に友達のそれと言っても過言ではなかったと思う。


 けど。


 志摩くんはそういうことに慣れていなかったのか、どうしてもわたしたちに対して一歩引いているというか、どこか遠慮しているような節があった。


 だからわたしは、そんな遠慮は必要ないんだよと伝える意味で、わざわざ友達という言葉を口にして、まるで契約でも交わすかのように関係の進展を提案したのだ。


 それで、志摩くんもそれを受け入れて、わたしたちは晴れて友達同士になったわけなのだけれど。


 だからこそ思うことなのだけれど。


 友達ってなんだろう?


 友達なら、他愛ない連絡くらい取り合うものなのでは?

 梓なんて、六個入りのアイスクリームの中にハート型のものが入っていただけでも連絡をくれるのに。


 ましてや、今は冬休みだ。


 約束を取り決めるに至らずとも、とりあえず『最近ひま?』くらいの確認はあってもいいのでは?


 なんて。


 それはわたしにも言えることだ。

 むしろ、友達付き合いの経験値でいえばわたしの方が上なのだし、ここはこちらから連絡をする方がいいのだろうけど。


 けど。


 ……けど!


 志摩くんからの自発的な連絡がほしいいいいいいいいいいいいいいいいい!


「なにしてるの、おねーちゃん」


 気づけばわたしはスマホを手にしながら、リビングの中をごろごろと転がっていた。


 そんな奇行を行っていれば、さすがのななでも不思議に思うよね。

 黙々とお菓子を食べていたなながきょとんとした顔で言ってきた。


「……なんでもないよ」


「ふーん」


 言って、ななは再びお菓子をぱくぱくと食べ始める。


 わたしも体を起こした。


 ピコン!


 と、そのときスマホがメッセージの受信を知らせてきた。わたしは慌ててスマホを確認する。


「……なんだ、梓か」


 少しだけ凹んでしまう。

 梓に失礼だよね、こんなこと思うのは。


『陽菜乃は初詣どうするの?』


 今日は大晦日、つまり明日は元旦だ。


 もちろん初詣にだって行く。

 家族と行くし、去年までは中学のときの友達とも行っていた。


 今年はどうしようか、なんてそういえば考えてなかった。


『梓たちは?』


 メッセージを返すと、すぐに返事がきた。


『部活の子たちと行くかどうしようかって話をしてて。陽菜乃が誰とも行く予定ないなら一緒に行こうかなって』


 梓は友達が多いからなあ。

 もちろん、わたしだってそれなりに多い方だとは思う。学校ではよく話をするし。


 けど、わたしの持つ友達というのは、あくまでも学校の中でというか、プライベートな関わりは実はあまりない。


 わたし自身が、そこまで踏み込めてないというのもあるけれど。


 その点、梓は様々な交友関係を持っている。羨ましいとは別に思わないけど、すごいなと感心はする。


 彼女はこういうとき、いろんな人から誘いがあるんだろうな。


『わたしのことは気にしないでいいよ。みんなと行ってきて』


 そう返事をすると、すぐに既読がついた。一息つく間もなく、また返事がくる。


『誰かと行くの?』


『うん、まあ。どうしようかなって』


『志摩?』


 彼の名前が突然出てきて、わたしはどきりとしてしまう。

 なんて返そうものか悩み、文字を打つ指が止まってしまう。


 多分、深い意味はなくそう言っているのだろうけれど、別に予定が決まっているわけではないし、肯定するのも違うというか。


 そもそも、ここで肯定してしまうと、わたしの気持ちがバレてしまうのではないだろうか。


 バレて困ることはないけど、なんだかちょっと恥ずかしい。

 

『なるほど、志摩か』


 わたしが返事に悩んでいると、続けて梓からメッセージが送られてきた。

 それだけでなく、ポコポコと次々に続く。


『既読がすぐについたにも関わらず返信がないということは返信を悩んでいるということ』


『おおよそ、まだ約束は決まっていないけど、そうなればいいな的なことを考えていると見た』


『そもそもここで肯定してもいいのか、なんてことさえ悩んでる可能性もあるね。予定が決まっているわけではないって理由もあるけど』


『ここで肯定すると、志摩が好きだということがバレてしまうみたいな心配も頭をよぎったのでは?』


『大丈夫』


『心配しないで』


 え。


 え。


 なに。


 誰にも言わないから教えてみ、的なことを言われるのだろうか。

 誰かに恋愛相談なんてしたことないけど、わたしは梓にこの気持ちを打ち明けてもいいのだろうか。


『バレバレだよ』


「なんだそれ!」


 柄にもなくツッコんでしまった。


「どしたの、おねーちゃん」


「……なんでもないよ」


 大晦日。

 わたしの悩みは解決しない。


 はてさて、どうしたものか。

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