第49.5話 メリークリスマスと妹は言う


 十二月二十六日。

 クリスマスの翌日。


「メリークリスマス!」


 俺がクラスのクリスマス会に参加するということで、家族でのクリスマスパーティー的なものがこの日行われていた。


 梨子はクリスマスにおいては非常に素直になるというか、毎年このイベントは楽しみにしているので箍が外れている。


 つまり、いつもはつんとした梨子もこの日に限り、テンションが高い。

 サンタ服とか着ちゃってる。


 テーブルの上にはチキンやシチューといった、普段よりも豪華なメニューが並んでおり、視覚的にも嗅覚的にも刺激されぎゅるるるとお腹が鳴る。


 いただきます、と家族全員で手を合わせてから料理に手を伸ばす。

 とりあえずある程度ご飯を楽しんだところで、俺は思い出したように尋ねる。


「そういえば、サンタさんからなに貰ったんだ?」


 梨子は中学二年生にも関わらず、家族の努力の甲斐あってサンタクロースを信じている。

 もはやその時期になると、正直に真実を伝えるべきではないかという意見も家族会議にて出たけど、この梨子の笑顔を見るとついつい躊躇ってしまう。


「んー? えっとね、エアーポッツ」


 言いながら、梨子はもらいたてほやほやのエアーポッツをじゃーんと見せつけてくる。


 え、あっま。

 俺の要望なんて一切聞き入れないくせに。

 そんなことを思いながら両親の方を見ると、二人揃ってさっと目を逸らされた。


「それで? お兄はあたしへのプレゼント用意してくれた?」


「あー、まあ、一応」


 クリスマス会に向かう前に買っておいた。梨子がなにを欲しているのかなど知る由もなく、かといって悩みに悩んでいる時間もなかった。

 知っていたことといえば、欲しいものはエアーポッツ。しかしそんなものはさすがに買えない。つまりそれ以外のものは同列であろうと考え、その上で購入した。


「はい」


 用意していたものを渡すと、梨子は嬉しそうに受け取ってくれる。こういう顔されると、渡し甲斐は感じるんだよなあ。


「ねえねえ、開けてもいい?」


「いいけど。期待はするなよ」


「んー」


 わかっているのかいないのか、判断がつかないリアクションをしながら、梨子はがざごそと袋の中を漁る。


「なにこれ」


「パジャマ。じぇらーとなんちゃらってとこのやつ。有名なんだろ?」


「ジェラート・ピケね。たしかに有名だけど。なんでパジャマ?」


 ペリペリと袋のテープをめくりながら訊いてくる。


「もう中学二年生なんだし、いつまでもスウェットで寝てないで、可愛いパジャマでも着たらどうかと思って」


 ちなみに、このジェラート・ピケというパジャマについてはネットで適当に調べた。

 なにも考えずにお店に向かうと当たり前だけど女性ばかりで入店を躊躇ったものだ。


 一人でいると不審者と間違われると思い、入ってすぐに店員さんに妹へのプレゼントであることを伝え、おすすめのものをピックアップしてもらい、これでいいかと選んだのだ。


「ふ、ふーん。お兄はこういうのが好きなんだ?」


「別に。世間的に人気ってだけで俺が好きとかじゃないけど」


「……」


「な、なーんちゃって。お兄ちゃんはそういうのいいと思うよ。梨子に似合うかなと思って買ってきたんだよ」


「そ! スウェットは楽でいいけど、せっかくだし、仕方ないから着てあげる」


 一瞬むっとした梨子の気配を察知し、不機嫌になる前にすぐに切り替えた俺。

 梨子は仕方ないなんて言いながらも、上機嫌にパジャマを眺めていた。


 そんな俺たち兄妹の様子を両親は微笑ましい顔で見つめていたという。


 これじゃクリスマスパーティーという名の、梨子への接待のようなものだな。


 まあ。


 楽しそうにしている梨子を見ると、それでもいいかと思えるのだが。


 今年のクリスマスパーティーは、そんな感じでつつがなく進み、何事もなく無事に終わりを迎えた。

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