第41話 聖なる日の祈り⑧


『それじゃあルールの説明をするぜええええええええ!』


 全員がペアになったところで、ギャル子さんがステージで再びマイクを握る。

 どうやらギャル子さんは進行を務めるためゲームには不参加なようだ。


『最初のゲームは多数派ゲームです。これからあたしがお題を言うので多数派の方の答えを選んでもらって、実際に多数派だったペアには一ポイント。最終的に一番ポイントを持ってるペアが勝ちです。もちろん、豪華な賞品もあるので頑張ってネ〜』


 簡単なゲーム紹介をしたギャル子さんはカンペを取り出す。あそこにお題が書いてあるんだろう。


 それぞれのペアには解答の際に使うパネルが配られる。


「頑張ろうね、志摩くん」


「もちろん。やるからには絶対に勝とう」


 そんなわけでさっそくゲームが始まった。


『えっと、それじゃあ最初のお題ね。朝食はごはん派かパン派か。ごはん派は赤、パン派は青のパネルをあげてくださーい』


 シンキングタイムが始まる。

 クラスメイト全員が入れるほどの部屋ではあるけど、さすがに間隔を空けるほどの余裕はない。


 しかし話し合いの内容を聞かれるわけにはいかない。なので、隣にいるペアには聞こえないように小さな声で話す必要があり、必然的に距離が近くなる。


 これはちょっと照れる。


「志摩くんはどっち?」


 日向坂さんとの距離は、本当に肩と肩が触れ合うほどに近い。というか触れている。

 当たった感覚はあっちもあるだろうに、全然気にしている様子はない。

 意識してるのがこっちだけなのがなお恥ずかしい。


「俺はパン派。日向坂さんは?」


「わたしは和食かな」


 見事に分かれてしまう。

 ペアの間でこうなると話し合う必要がある。この勝負は多数派を選ぶゲームなので、自分がどうなのかというのはあくまで判断材料でしかない。


「ここはやっぱりごはん派かな」


「わたしはパン派な気がしてきた」


 そちらに合わせたつもりが、逆に日向坂さんがこちらに合わせようとして結局すれ違う。


 結局、三十人近くいる人間の答えを予想できない以上、最後にものを言うのは運である。


「ごはん派で」

「おっけーだよ」


 結論が出たところで話し合いの時間が終わる。せーのの合図で全員がパネルを上げる。


 結果。


『多数派はごはん派でしたー!』


 正解したペアはハイタッチをして盛り上がり、間違ったペアも悔しそうにして盛り上がる。

 なるほど、確かにこれはあまり話したことのない相手とでも盛り上がれるゲームらしい。


「志摩くん」


「ん?」


「手」


「手?」


 日向坂さんが両手を上げている。少ししてなにが言いたいのかを察して、俺も同じように手を上げた。


 パンッ。


 俺は生まれて初めてハイタッチというものを経験した。不思議と一体感というか連帯感のようなものを感じた。


『次のお題いくねー。異性の好きな髪色は黒髪か茶髪か――』


 これはさっきのお題に比べると予想しやすいような気がする。あくまで偏見になるけど、ごはん派っぽいとかパン派っぽいよりは、あいつ黒髪好きそうとか茶髪好きそうの方が想像の余地がある。


「ち、ちちちなみに志摩くんはどっち派?」


「ちが多いような」


「わたしは黒髪派かな! やっぱり真面目なのがいいよ!」


「自分は髪染めてるのに」


「うるさいよ!」


 日向坂さんは髪を染めている。

 しかし派手な色ではないし明るくもない。ダークブラウンとかそっち系の、色の付いた黒みたいな感じでほとんど黒みたいなもんだ。


「それで、志摩くんは?」


「んー」


 こういう場合のイメージとして、黒髪は清楚系、茶髪はギャル系と分けられるのがパターンだよな。

 正直言って黒髪でも茶髪でもどっちでもいいんだけど、そういう風に考えると答えは導き出せるな。


「黒髪かな」


 やっぱり清楚系がいいよ。

 ギャルといってもギャル子さんのようなタイプならいいけど、こういう場合にイメージすべきはもっとギャルギャルした、つまるところオタクに優しくないギャルだ。


「がーん」


「がーん?」


「なんでもない」


 なんでもない顔はしていないけど。

 どうしてかショックを受けているようなので、一応ちゃんと補足説明しておいた。


「結論、これは黒髪がいいよ。清楚系を嫌う男子はまずいない」


「女の子もいるんだけど?」


「清楚系を嫌う女子もいない……はず」


「でも世間的にはちょっと悪いくらいの男の子が人気っていうよね。あくまでも世間的にはっていう話だけど」


「……黒髪で」


「譲らないなあ。別にいいんだけど」


 そんなわけでシンキングタイムが終了。それぞれがせーのでパネルを上げて答え合わせを行う。


 結果。


『多数派は黒髪でーす!』


 ついに俺たちも自然とハイタッチをしてしまえるくらいに盛り上がり始めた。


 それからもお題が続く。

 夏派か冬派か。

 海派か山派か。

 大事なのは顔か性格か。

 タイムマシーンで行くなら過去か未来か。


 などなど。

 一つの問題が終わるたびにパートナーとの距離が縮まっているような気がした。


 一緒になにかを楽しむというのが、仲良くなる最も簡単で手っ取り早い手段なんだと思わされる。


『そろそろこのゲームも大詰めだね。次の問題で最後にしようかな。最後のお題はズバリ、女の子の好きな部分はおっぱいか、それ以外かッ!』


 女子がそんなお題出すんじゃねえよ!


 男子がざわつく。

 もちろん俺もざわつく。


「……えっと」


 俺はどうすればいいのか分からないまま、隣の日向坂さんの方を向いた。


「さて、参考までに聞くけど、志摩くんはどこ派なのかな?」


 めっちゃ笑顔だった。

 それどういう感情なの?

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