第40話 聖なる日の祈り⑦


 そもそも問題として、どうやって同じ番号の人を探せばいいの?


 友達がいればとりあえずそいつに訊いて、違えばその流れで近くのやつに訊いて回るのが定石だよな?


 俺がううーんと唸っていると、一部のクラスメイトが移動を始めた。

 二人で移動しているところを見るに、ペアが決まっていない奴らを分かりやすくするために動いているのだろう。


 俺は周りを見る。

 全員がくじを引き終えたらしく、俺の周りにはまだペアが見つかっていないであろうクラスメイトがまだそこそこいる。


 誰に声をかけるべきなんだろう、誰か声をかけてくれえええと心の中で祈っていた俺の肩を誰かが叩く。


「は、はい?」


「志摩、何番?」


 振り返ると、そこにいたのはタレ目さんだった。この人はまだペアが見つかっていないのか。


 これは好機。

 まさしくチャンスだッ!


 頼む。

 タレ目来い来い来い来い。


「10番なんだけど」


「10番かあ」


 ふーん、というリアクションをしただけでうんともすんとも言わない。え、どっちなの?


「残念。あたしは2番だよ。せっかくだし絡んでみたかったな」


 じゃーねーとどこかへ行ってしまうタレ目さん。最後の一言とか反則過ぎん?

 俺も絡んでみたかったんですけど。


 しかし、タレ目さんでもないならもう誰と一緒になっても変わらないな。

 無差別に誰かに声をかけるようなスキルは俺にはないし、もうちょっと人が減るまで待っておこう。


 と、方針を決めてぼーっとしていたところ。


「なんか楽しそうにしてたね?」


 日向坂さんが後ろから声をかけてきた。


「いや、どうだろ」


「なんかデレデレしてたように見えたんだけど」


「してないよ」


「どうだか」


 なんか不機嫌な感じかな。

 ペアの子が見つからなくてイライラしてるのかな?

 そんなわけないか。


「日向坂さんはまだペア見つかってないの?」


「ううん。見つかったよ。ていうか、見つかってたよ」


「そうなの? じゃあなんでここにいるわけ?」


「なんでだと思う?」


 むっふっふーと何やら楽しそうに笑う日向坂さん。さっきまでの不機嫌はどこかへ吹き飛んでしまったようだ。


「いや、分からんけど」


「ほら、これ見てみなよ」


 言いながら、日向坂さんは手に持っていたくじの紙を俺に見せてくる。そこには『10』と書かれていたことに驚く。


「あれ、日向坂さん16じゃなかったっけ?」


 驚きのあまり、思わずそんな言葉が漏れてしまう。これで結局盗み聞きしてる気持ち悪い奴と思われる未来にまっしぐらだ。


「んなっ、なんでそれを!?」


 まさか俺が番号を知ってるとは思っていなかったようで、日向坂さんはあんぐりと口を開けて分かりやすく動揺を見せた。


「いや、さっき財津と話してるのがたまたま聞こえて。たまたまね」


「あ、あー、そうなんだ」


 バツが悪そうに日向坂さんが呟く。


「ところで、なんで日向坂さんの番号が変わってるわけ?」


「……えっとぉ、それはぁ」


 おろおろと視線を泳がせる日向坂さんはハッとなにかを思いついたように脳天の電球に明かりを灯す。


「10番を持ってた子がね、志摩くんの知らない人だったから変えてもらったんだよ! ほら、志摩くんとペアになっても仕方ないでしょ? だったら変わってあげたほうがいいのかなーとか、わたしの親切心が働いてねー」


 早口にいろいろと言ってるけどつまり俺に失礼なこと言ってませんかねいや全然いいんだけど。


 そんなことを思いながら日向坂さんを見ていたところ、その視線が居心地悪かったのか、日向坂さんは大きく口を開く。


「志摩くんだって知らない人とは嫌だとか言ってたでしょ! だから変わったの! それともなに、志摩くんはわたしとペアが嫌だと言うのかな!?」


「いや、それはないけど。むしろ光栄というか、有り難いというか、嬉しいというか」


「じゃあなにも問題ないよね?」


「うす」


 開き直った日向坂さんは俺になにかを言う暇さえ与えなかった。

 いや、まあ本当に嬉しいことではあるんだけど。

 シンプルに番号が変わったのが気になっただけで、咎めるつもりとかは一切なかったのだ。


「わたしもね、志摩くんと同じペアになりたかったんだ」


 改めて、移動したあとにテンションが落ち着いた日向坂さんが言う。


「せっかくのイベントだし、仲良くなりたい人と仲良くなりたいじゃない?」


「……そりゃ、まあ」


 急にそんな直接的なことを言われると照れる。発言した日向坂さんも恥ずかしくなったのか、顔を背けている。


「友達、作りたいんだよね?」


「そうだね」


「……わたしも、志摩くんとちゃんと友達になりたいから」


「俺もだよ」


 彼女にここまで言わせる俺はきっと意気地なしのチキン野郎だな。

 もしこれが愛の告白だったら自分を責めるだろう。格好良くリードできれば言うことないけど、なにぶん経験が乏しくてなにも上手くできない。


「じゃあ、きっとクリスマスパーティーが終わった頃には、わたしたち友達だね」


「……そうだね。そうなれるように頑張るよ」


 なんだか変な空気になってしまい、お互いになにを話していいのか分からなくなってしまった。


 全員がペアを作り、ギャル子さんが進行するまでの間、俺たちは沈黙の中にいた。

 けれど、それを気まずいと思うことはなくて、気になることなく俺は周りのクラスメイトの会話に耳を傾けていた。

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