第28話 お買い物は誰とする④
翌日。
終業式はつつがなく終わり、最後のホームルームにて通知表が渡される。
皆、どきどきしながら内容を確認し、友も良し悪しを語り合っている。
俺はというと、そこまで緊張することはなく、まして不安を抱いていることもない。
というのも、別に授業態度が悪いわけではないし、提出物もしっかり出している。その上、テストの点数も上々だったわけで、こういう言い方をすると傲慢だと笑われるかもしれないけど悪いわけがないのだ。
恐る恐るとは無縁なほどにペラと通知表を開き内容を確認すると、おおよそ予想通りの結果だった。
これに親のご機嫌な瞬間が合わされば小遣いくらいは貰えるだろう。
通知表を配り終わると、あとは担任のそれっぽい話を聞けばホームルームも終わりだ。
「なんとなんとなんと!」
二学期すべての課程が終了し、担任が教室から出ていったところで、昨日仕切っていたギャル子さんが教卓に立って注目を集める。
「明日開かれるクリパは全員参加ですありがとー!」
パチパチと拍手をすると、ノリのいい連中がそれに乗っかる。
「昨日貼ってた紙に書かれた名前確認してたらね、見事にクラスメイト全員の名前があって、あたしは嬉しいですよええ!」
よよよ、と泣き真似をしてみせるギャル子さんを見ながら、俺は首を傾げていた。
俺、名前書いてないはずなんだけどなあ。
あ、もしかして影薄すぎてクラスメイトであることすら忘れられてるのかな。
え、なにそれ、つっら。
「あ、志摩の名前は私が書いといたよ」
俺の心の中を見透かしたように、横を通りがかった秋名が言った。
「そうなの」
「行くんでしょ?」
「……この流れで行かないとは言えないだろ」
「照れちゃって」
「ちがうわ」
しかし。
まあ。
書いててくれて助かったところもあるな。
つまり、秋名が俺の名前を書いていなければ俺だけが名前を書いていなかったことになる。
それは中々に恐ろしい空気だったろう。
「明日はカラオケ予約したからみんな確認しててね。あ、クラスのグループ作るから誰かしらから招待してもらってね!」
よかった。
クラスのグループはできていなかったのか。俺だけが誘われていない可能性があったから安心だ。
俺がほっと胸を撫で下ろしていると、教室内のそこかしこからピコンピコンとラインの通知音的な音が鳴る。
「志摩くんはわたしが招待するね」
「助かる」
友達のいない俺は普段からラインアプリを開くことがほとんどない。親からのメッセージか広告、時々日向坂さんから送ってこられるときしか見ないので操作が不慣れだ。
ヴヴとスマホが震える。
着信音がいきなり鳴るのが好きじゃないので基本的にはバイブレーションにしている。
そもそもメッセージ来ないんだけどね。
俺は日向坂さんからの招待を受け取り、ライングループに参加する。
グループページを開くと既に参加したという意味なのかただのノリなのか、それぞれがスタンプを送っていた。
俺も送ったほうがいいのかな、なんて思いながら眺めていると、ふとメンバーのアイコンに目がいく。
いろんなクラスメイトが各々好きな画像をアイコンにしており、その種類は実に様々だ。
例えば日向坂さんの場合はケーキの画像だ。これはきっと広海さんのところのやつだろう。
例えば秋名の場合は花の画像だ。いつの時期のなにかは分からないが赤い花。チューリップではないことだけは確かだ。
例えば財津の場合は友達と海に行ったときの写真だろう。水着の男数名が並んで調子づいたポーズを決めている。
例えばギャル子さんの場合は友達に撮ってもらったであろうソロ写真。インスタ映えするスポットでウェーイな感じの写真だ。
それに対し、俺は好きな小説の表紙。なのでもはや文字だ。誰かに見られるものでもないので気にしていなかったけど、これは高校生男子として適切なのか?
わからん。
自分の画像じゃないにしても、アニメキャラとかにしたほうが個性立つかな。
でも別に俺アニメオタクじゃないしな。
「志摩のアイコンなにこれ」
「好きな小説の表紙だよ」
「ほーん。なんか志摩っぽいね」
「俺っぽい……?」
この表紙、俺っぽいのか?
と、改めて自分のアイコンを眺めてみる。地味ってことか?
「たしかに。志摩くんっぽい」
日向坂さんも秋名の隣でくすくすと笑っていた。
ヴヴと再びスマホが震える。内容を確認するとイベント当日の詳細が改めてギャル子さんから送られてきていた。
用は済んだという雰囲気が流れ始め、各々帰宅し始める。
部活に参加する生徒、友達と遊びに行く生徒、一人ふらっと消えていく生徒と様々だ。
俺もその中の一人なわけだが。
今日はこのあと日向坂さんと約束があるわけだが、どこで待ち合わせるとか決めていなかったような。
でも一緒に学校を出るのはなんか違うような気もするし。日向坂さんは他の友達との雑談を楽しんでいるので急かしても悪い。
ここは先に駅前にでも行っておいて、メッセージを送っておけばいいだろう。
と、方針が固まったところで教室を出る。
吐いた息が白く色づくのを見ながら、しばらくとぼとぼと廊下を歩いていると後ろからパタパタと足音がこちらに近づいてくる。
もちろん自分ではないだろうけど、さすがにこうも足音が迫ってきていると怖さもあって振り返る。
と、同時に。
ドンッと。
背中に衝撃を受ける。
「いてッ」
何事かと衝撃の正体を確認する。
「なんで先に行っちゃうのさっ」
日向坂さんがいた。
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