第14話 社交活動の成果発表会
「おはようございます。お父様、お母様」
プルメリアは挨拶しながら、食堂に入った。だが、今回も母はいないようだ。ここ五日ほど夜会やガーデンパーティで忙しいのか朝食を共にすることは、なかった。お父様もお仕事で忙しいらしくもっぱら一人。今日はお父様と二人での食事のようだ。二人なのも楽しいが、お母様がいないとやはり寂しさを覚えてしまう。
「おはよう、メリア。アイリスはもう少ししたら来ると思うよ」
お父様が笑って教えてくださる。私の心が見透かされているようで恥ずかしさを覚えるが、久しぶりに家族が揃う喜びの方が上回ってしまう。お母様が来られるまでお父様は興味深い話をしてくださった。最近お父様はヴィスティガーと呼ばれる魔物を討伐したらしい。
「周辺の村を荒らしていてな、捕獲しようとしたのだが上手くいかず亡くなってしまってな。今は解剖医が原因を調べているんだ。子供もいるんだが欲しいか?」
「魔物の子供は少し怖いですわ。そのヴィスティガーは凶暴なのですか?」
お父様なら凶暴な魔物でも手懐けれそうですし、負けなさそうですが、私には自信がありません。ですが赤ちゃんなら可愛いでしょうし一度は見てみたい。
「魔物といっても比較的穏やかな種族であるし、わが公爵家の初代も飼い慣らしていたようだよ。メリアなら気にいるだろう」
お父様は笑っていらっしゃった。昨日の夜遅くにその子供は公爵家にやってきていて、今は馬小屋にいるらしい。気になったので朝食の後に一度見に行くことに決めた。
「トパーズ、プルメリアおはよう」
お母様がいらっしゃった。私と似た顔立ちなのにずっと華やかな雰囲気を纏っている。私も大きくなったらお母様みたいになれるかしら。さらにご機嫌になったお父様を横目に見ながらそう思った。
食事をしながらお母様はパーティの成果を教えてくださった。これからシフォン生地のドレスが流行しそうだとか、珍しい宝石の鑑賞会がエピス伯爵家で行われるとか、王妃様が今使っている香水の種類などなど。五日ほど屋敷を空けていた成果は上々のようだ。そういえば王子殿下が不思議なことを言っていたのでお二人に聞いてみることにする。
「お母様もお父様も王女殿下についてなにか存じ上げていらっしゃります?王妃殿下にも私お会いできていませんし、そもそも王家についてあまり詳しくは知りませんの」
私が知っているのは王女殿下は珍しい双子だったことぐらいです。それ以外の情報は何も知りません。
「王妃の名はアンスリウム・アーブル。アーブル侯爵家出身だ。アーブル家は代々木材の加工で財を成してきた一族で先代の時に爵位が上がって伯爵家から侯爵家になった。王子の側近であるタシュ辺境伯とは特に仲がよくて——」
ええと、私の想像していた答えとは違ったと言いますか。私はお人柄などを聞きたかったのですが家系の話から始まるとは思っていなくて、少し反応に困っているとお母様が口を開いた。
「プルメリアが聞きたかったのはそういうことではないわよ、トパーズ。王妃殿下はあまり社交的な形ではないわね。私やトパーズとはアカデミーでは同級生だったの。赤い髪に橙の瞳を持つ綺麗な人よ。宝石ではよくガーネットを好んでつけていらっしゃるわ。
王女殿下については陛下が情報をかなり制限しているから、あまり知らないわ。お会いしたりするのは難しいんじゃないかしら」
王妃様がお母様の同級生とは知りませんでした。何より王女殿下についてわからないことが多すぎますわ。悶々と考えているとアイオライトが入って来た。
「お嬢様ヴィスティガーの子供を見に行かれませんか?絶対気にいられると思いますよ」
いつも通り背中に斧を担いだアイオライトが優しく提案してくれる。お父様にも勧められたのでかなり可愛らしい生き物なのかもしれない。
「ヴァイオレットと行ってくるといいわ。馬小屋にいるから」
お母様とお父様に挨拶をして私は食堂から出て行った。
プルメリアが去った食堂。アイリスが社交活動という名の諜報活動の成果を発表し始めた。
「今回私が回ったのは十三のパーティー。重点的に回ったのは国王が開いた王子の交友関係を広める集まりに招かれた貴族と、身分の条件だけがクリアできなかった貴族たち。両者の子供たちにも挨拶したわ。いくつかわかったことを挙げていくわね。
一つ目はタシュ辺境伯家の金周りが最近良いこと。タシュ家の子供が王子の側近として働いているから、王妃からお金が出ているかと思ったけれどどうやらそうではないみたい。タシュ家は熱心な国王派として知られているけれど、裏切ってどこか別の家と繋がった可能性が高いわ。あの一族の向上心の高さは異常だから。後は阿漕なことをし始めた可能性も高いわね。これは男爵や準貴族が特に不自然だと思っているみたいね。
二つ目は王子の側近トルマリン・タシュについて。彼は眉目秀麗な子供だとどの貴族も知っているみたい。ただ一つ疑問が浮かび上がるわ。優秀な子供ならできる限り家に残らすはず。親愛なる国王に優秀な子供を捧げたかっただけかもしれないけれど不自然に思うわ」
「緑の瞳だからの冷遇なのか、はたまた辺境伯夫人の実の子供ではないのか。そもそもタシュ家の血を引いていない可能性もあるな」
実際タシュ家は叩けば埃がでる一族といっても過言でない。役人や下級貴族を買収しては阿漕な商売を繰り返す貴族の風下にも置けないような家門なのだ。 愚かな貴族であろうと公爵家に害がなければ基本的に傍観するのが信条なのだが、今回に関してはそうもいくまい。可愛いプルメリアに何かあってからでは遅いのだ。
「今からタシュ家に人を送っても行方不明になるのがオチですからね」
アイオライトのその言葉は比喩でもなんでもない。これまで侯爵、公爵家共に何度か人を遣ったがすぐに連絡が取れなくなってしまったのだ。奴隷商売をやっているのだと睨んでいるが証拠を掴めていない。国王も王妃も多額の献金を前にしたら何も言わないのだ。
「でしたらますますタシュ家がきな臭いですね。侯爵家に献金をしてもなお金回りがいいのは不自然すぎませんか?」
カモミールの疑問はもっともだった。金回りがいいのが常識的に考えておかしい。だが辺境伯の立場は他国と取引するには少々弱いのだ。国王の信頼が厚いといっても辺境伯の中では歴史の浅い家門である。いくら側近が王子に信頼されていても侯爵に近い立場であっても侯爵ではないのだ。かと言って王妃らアーブル侯爵家のように辺境伯を侯爵に上げることは不可能だ。辺境伯の立場は国境を守るために存在している身分なのだから。
「続けて三つ目。王女殿下の存在が疑問視されているわ。我々高位貴族ですら王女の住んでいる場所が分かっていない。九歳を超えたならそろそろ婚約者をあてがってもいい年齢なのに公に一度も姿を現していない。そもそも王女は存在していないのではと思う貴族が多いわね。ただ反国王派の貴族たちは王女にも皇位継承権を持たせて女王として祭り上げたいようね」
王女についてはわからないことが多すぎる。エリカという名前しか伝わっていないなどだいぶ不自然なのだ。
「愚かな王が瞳の色の差別で娘を監禁している可能性が高いが、それならば生かしておく理由が謎だな」
長い歴史上王族の不審死などよくあることだ。公にしていない王女が死んでしまっても誰も気にも止めないだろう。
「そして一番興味深いのが王子が王子ではない可能性が存在していることね」
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