第13話
セイを担ぎながら、カイは逃げた。ヤマタは追っては来るものの毒が非常によく効いたようで蛇の頭は三つ。尾が五つにまで減っている。
それでも見た目が怖いのは変わらず、逃げている途中でヤマタに遭遇した子どもは皆、恐怖で固まった。
「リツー。セイを守ったのは最高だけど、セイが心配で自分の役目をサボったな」
そう呟きながらカイは走る。右目の視力を失い、右側が見えにくいながらも、カイは状況を把握した。そして、セイが予測した最悪の事態になった現状に盛大に舌打ちをした。
「自分が育てたガキを片っ端から食いながら追いかけて来るんじゃねーよ」
失った体を回復させるためなのか、手当たり次第にヤマタは子どもを食べた。まさに地獄絵図である。
「ここまで予測するなんて大したもんだな。まぁ、セイの予測では自分が死んで、俺とリツとユナは生きているつもりだったみたいだけどな」
そんなことさせる訳がないのにな……、とカイは心のなかで呟いた。
セイがいなければ、逃げることもヤマタを倒すことも不可能だった。セイがいたから、仲間が裁きと言う名でヤマタの食料にされていくなかでも希望が持てた。
「セイ、お前は俺らの希望なんだよ。それに、お前が死んだら誰がみんなの解毒をするんだ。俺はバカだから覚えられてねーぞ」
そう言いながら、体の大半が崩れたヤマタへとカイは振り返った。
セイの作戦は成功したのだ。最悪の形ではあったが、それでもヤマタを倒したのである。もっと時間があればこんなに甚大な被害は出なかっただろう。けれど、もっと待っていればセイが裁かれて誰も助からない未来が待っていた可能性だってある。
「セイ、お前の勝ちだ」
ヤマタの体は毒に犯され、バラバラになり、残骸だけがそこにはあった。
カイは生き残っていた二人の子どもを連れて屋敷を出た。そして、真っ赤な鳥居へと向かう。
ズリッズリッと歩いていた人のようなものもまた崩れて塵へと化していた。ヤマタの力で無理矢理動かし続けられていたのだから、無に帰るのは自然の摂理なのかもしれない。
セイはまだ起きない。血を失いすぎたのだからそれも仕方のないことだろう。カイはセイを担いだまま鳥居の前に立つと、屋敷の方へと視線を向けた。
「リツ、ユナ。またな。あの世で先に待っててくれ。行くのは待ちくたびれるほど先になるけどな」
意地悪く笑い、鳥居をくぐった。くぐった先は彼等が生まれた村だった。
その村を見ても誰も感慨深さも懐かしさも感じない。ただ知らないところへと、はじめてお屋敷以外のところへ来たという認識だ。
カイは神社の境内にセイを横たえると、鳥居に火をつけた。
「こんなもんがあるからいけないんだ」
村の人々が見たら罰当たりだ、祟りが起きると騒ぐだろう。けれど、その祟りに勝った彼等に怖いものはない。
眩しいほどの赤で鳥居は燃える。その煙は血のにおいがした。
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