第12話


 ヤマタの部屋の中にいたユナは、みんなの声が聞こえていた。


「セイを。セイを助けないと……」


 上手く動かない体を這って、引き戸まで向かう。あそこまで行けば、ヤマタがいるはずだ。早くヤマタに食べてもらわないと……、という気持ちだけでユナは進んだ。


 這っているときにユナは下腹部に違和感を感じたが、今はそれどころではないとその違和感を無視して進む。


「カイ! 目を開けて!! 逃げて!!」


 必死に叫ぶセイの声が聞こえ、その後すぐにカイの呻き声がした。

 ユナは引き戸まで辿り着くと、壁に寄りかかるようにしてどうにか立ち上がり、引き戸を開けた。


「ヤマタ様、どうしたんですか?」


 震えることなく、微笑めたことにユナは安堵した。その刹那、白い何かがユナの視界に入った。


「えっ?」


「ユナーーーーーーーーー!!!!」


 セイの自分を呼ぶ悲痛な声が耳に届く。


 ガンッ! ゴトッ。


 ユナの頭と体は離ればなれになり、頭だけが転がってセイのところへと向かって行った。


「うあ゛ぁ゛……。ユナっ! イヤだ。ユナ。ユナ、ユナってば、ユナ、ユナ、ユナユナユナユナぁ……」


 セイは右腕でユナの頭を抱えると体のところへと向かった。そして、頭と体をくっつけようと片手でぐいぐいと押した。


「ユナ、何でだろ? うまくくっつかないよ。片手だからかな? ねぇユナ。返事してよ。どうやったらくっつくんだろ。ねぇ、ユナ……」


 その場から動かないセイの横にはヤマタが来た。ヤマタの八つあった蛇の頭は六つになり、セイの腕と包丁の毒はドンドン体を蝕んでいく。ヤマタにとって養分を補給することは急務であった。

 ヤマタはユナの体の部分を拾い上げ、足からかぶり付いた。セイの体にはまた毒があるかもしれないとの判断だった。


 だが、ユナの足を食べたら体が痺れ、息が苦しくなり、慌てて吐き出した。


「セイ、ユナにまで毒を与えたか……」


 栄養補給は大事だがセイを一刻も早く始末しなくてはいけない、と今更ながらヤマタのなかで警報が鳴り響いた。

 今なら、セイに戦う気力はない。ユナの足を食べられたにも関わらず、頭を抱いて呆然と座っている。目の焦点が合っていない。


 ヤマタはセイに向かって尾で貫いた。だが、貫いたのはセイではなかった。


「セイ、しっかりしなよ。そんなんじゃ、ユナが泣くよ」


 セイに覆い被さって庇ったことで腹部に尾が刺さった状態のリツは掠れた声で言った。

 セイの視線はリツへと向かい、困ったような顔をしているリツと視線が交わった。


 何で、リツがここにいるの? 回らない頭でぼんやりとセイは思った。


 リツは、頭は良いが運動は苦手で、戦うことには向いていない。だから、他の子どもたちの誘導や手当てなどの援護要因だった。だから、本来ならこの場にはいないはずである。


「リツ? どうして……」

「何がなんでもセイだけは助ける。そうユナと約束したからだよ。セイ、負けるな……」


 ごぼり、とリツは口から血を吐いて倒れた。その姿にリツが自身を庇ったのだとセイは悟った。


「私を助けようと、みんなが死んでいく。……戦わないと」


 そうしないと、死ねない。一人だけ諦めて死ぬわけにはいかない。その想いだけでもう一度セイは立ち上がった。

 けれど、もう武器はない。あとは毒が効くのをひたすら待つだけだった。


 だが、ヤマタが待ってくれるはずもない。

 次々と尾で攻撃を仕掛けてきたのだが、避けきれず、切り傷が増えていく。ただでさえ腕がなくなった時に血を失ったのに、動けば動くだけ血が出ていく。だが、動かなければ確実に殺されるだろう。


 セイも追い詰められてたが、ヤマタの動きもどんどんと鈍くなる。そのおかげでセイは致命傷を避けられていた。だが、視界は今にも暗転しそうなほど、目の前がぼやけ、ほとんど見えていないような状況だ。

 一瞬、視界が暗転しヤマタの攻撃を今度こそ避けきれないと思った時、力強い腕に引かれ、担がれた。


「大丈夫だから、少し休んどけ」


 その声を最後にセイの視界は今度こそ暗転した。

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