第11話

「セイ、何を……」


 そう呟いたヤマタだったが、何かに気が付くと即座にセイの左腕を食いちぎり、突き飛ばした。突き飛ばされたセイは、ガシャンと音を立てて窓ガラスを割った。


「う゛うぅぅ゛ぅ゛……」


 セイは獣のような叫びをあげながらも右手と口で左手の止血をしていく。その間にヤマタは引きちぎった腕を咀嚼した。


 グチュッグチャグチャァッ──。

 ボリッゴリッビチャグチュッ──。


 耳を塞ぎたくなるような音とともにヤマタの背中から生えている蛇の口からはセイの血が滴り落ちる。


「まったく。人の口のなかに毒を流し込むなんて、信じられませんね。お陰で回復するためにセイを食べてしまったではありません……か…………あ゛?」


 セイの左腕を食いちぎった蛇の顔がドロリと溶けた。目玉がポトリと落ちて転がっていく。

 被害はその蛇に止まらず、すぐ隣の蛇までもが青紫色に変色している。元は真っ白だったにも関わらず。


「セイ……、何をした!」

「ふふっ。突っ込んだ腕にも毒を回しておいたに決まっているじゃないですか。切断しなければ命に関わるような毒でしたから、おかげで命拾いしたわ」


 大量の汗をかきながらもセイはわらう。ざまぁみろ、とその顔は言っていた。


「猛毒で回りも早いわ。早くしないと流石のヤマタ様でも危ないかもしれませんね」


 止血をしたものの左腕はなく、背中にガラスの破片が刺さった状態なのにも関わらず、セイはふらふらと立ち上がる。

 ヤマタは忌々しげにセイを見た。どうせ何もできないと高を括っていれば、噛みつかれたのだ。面白くないどころじゃない。しかも、自身の体が毒におかされているなど冗談でも笑えない。


「セイ、可愛がってやった恩を忘れやがって」


 ヤマタの顔には蛇特有のうろこが現れ、瞳孔は縦に細長くなり、口は横に裂け拡がった。先程まではなかった尾も八つある。

 だが、セイはそれでも止まらなかった。


「自分のことを神だなんて言っていたけれど、本当かしら? どう見ても神というよりも化け物じゃ──」

「セイーーーっっ!」


 怒りを隠すことなく、ヤマタは人の顔だった部分の首を伸ばしセイへと襲いかかった。いや、かかろうとした。


「あ゛あ゛ぁぁあ゛!! カイ、貴様きさま……」


 ヤマタは尾でカイを弾き飛ばした。カイの右の目の辺りからは血が流れているが、それを拭うこともないカイは倒れている。

 ヤマタはというと、背に包丁が突き立てられ、変色していた蛇の部分が膨張しているにも関わらず立っていた。


「お前ら、楽に死ねると思うなよ」


 地を這うような声であった。

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