第10話

 日が沈み三人が行動を開始した頃、ユナは裁きを今か今かと待っていた。早く、ヤマタに取り込まれたかった。


「ヤマタ様。私の裁きはまだですか?」


 待ちきれなくて声をかけた時、悲鳴や助けを求める声がした。それも一つや二つではない。


「ふむ。セイが仕掛けてきましたか。折角なので、ユナはセイの目の前でいただきましょう。もう少し待っていてくださいね」


 裁きという言葉を使うことが無意味となったため、ヤマタは直接的な表現をした。それでも丁寧な話し方を止めない姿がユナには歪に見えた。


 ヤマタはユナを置いて、助けを求める子どもたちのところへと向かった。理由は分からないもののユナが逃げない自信があったからだ。


「待って。早くしてくれないと……」


 部屋を出ていくヤマタの後ろ姿に、ユナの焦りが混じった言葉がポトンと誰に拾われることなく落ちた。



 ヤマタは部屋から出て子どもたちのところへ迎えば、嬉しそうに抱きつく子、もじもじと話しかけたそうにする子がいた。それは、いつもと同じだったのだが──。

 逃げ出す子、へたり込んで動けない子、青ざめた顔で呆然とこちらを見てる子、気絶する子までいる。


「セイは何を考えているのでしょう……」


 六割の子はいつも通りだが、四割の子の様子がおかしい。何を狙ってそんな割合にしたのか、ヤマタには理解できなかった。だが、混乱を起こしたかったのであれば正解だ、とヤマタは笑う。


「さて、ユナのところに戻りましょうか。きっとセイもそこにいるはずです」


 混沌とした状況をヤマタは放っておくことにして、抱き付いてきた子を一撫でした後にユナの元へと戻る。そして、部屋の引き戸をを開けようとした時、何か丸いものが飛んできた。

 それをキャッチすれば、小さな針が手に刺さる。


「こんな小さな傷で何ができると思っているのですか?」


 飛んできたボールの方に向かってヤマタは静かに声をかけるが、返事はない。返事の代わりに今度は小さな針が飛んできて八つのうちの一つの蛇に刺さった。肺活量のあるカイが吹き矢で飛ばしたのだ。


「セイ。いい加減にしなさい。どうせ逃げられないのですから、諦めたらどうですか? そうすれば、あなただけはずっと生かしておいてあげますよ」


 そう言ったヤマタにセイは物陰から飛び出すと包丁で刺そうとした。そのあまりにも杜撰ずさんな計画にがっかりしたのはヤマタだった。


「セイ。あなたがもっと私を楽しませてくれると思ったのは、期待はずれだったのでしょうか?」


 セイの包丁を持っていた右の腕をとり、ヤマタは悲しそうに言った。当然、ヤマタには包丁は届いていない。


「勝手に期待なんかしないで。ユナを返してよ」


 そう言いながら、セイは体の後ろに隠していた自身の左手を、一番近くにいたヤマタの蛇の口の中へと突っ込んだ。そして、手に握っていた小瓶の蓋を親指で開けると中身を流し込んだ。


 

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