第9話


 セイ、ユナ、カイとリツ、そしてヤマタ。それぞれの思惑が交差するなか、お散歩の日が来た。


 お散歩の日と一年の始まりの日。その二日間に必ず裁きがあると気が付いたのはユナだった。そんなことを思い出しながら、セイは夕日が美しい時間にカイとリツと合流した。


「私のことは置いていって。ヤマタを倒すわ。もし、倒せなくてもその騒動の間に逃げてね」

「何言ってんだ。セイも逃げるぞ」

「何があってもセイを連れていくようにユナに頼まれたんだ」


 リツの言葉にセイは泣きたくなった。きっとユナは自身を犠牲にする気なのだ。

 こんなことなら、教えなければ良かった……。強い後悔が押し寄せたが、セイはそれを振り払った。落ち込んでいる場合ではないのだ。


「そのために、調合してきたわ。ユナは私が助ける」

「それをユナが望んでいなくてもか?」

「望んでいなくてもよ」


 そう言って笑うセイに、カイとリツは白旗を上げた。


「しょうがない。セイがいなければ大人しく食われるだけだったんだ。協力してやるよ」

「仕方ないなぁ。僕だけじゃ逃げきれないから助けてあげるよ。とは言っても、準備はもう終わっているんでしょ?」


 セイは頷いた。そのために毎日、ヤマタの特別な薬に混ぜてきた。


「リツにお願いがあるの。絶対に生き延びて。私かユナ、リツが生き延びないと私たち子どもは全滅するわ」


 その言葉にリツは信じられないものを見る目でセイを見た。


「嘘だよね?」

「残念ながら、本当よ。全員が毒に犯されているわ。これで私たちを食べれば食べるほど、体に毒が回っていくことになるわね」


 何ともない、というような表情でセイは言った。

 セイはユナが穢れてからというもの、毎日少しずつみんなにヤマタの特別な薬に毒を混ぜてきた。すぐに生活に支障がでない程度の毒ではあるが、子どもを食べればヤマタの体は確実に蝕んでいくだろう。


 セイがここ数年で屋敷の近くに生えている草花に精通するようになり、自身で試してきた結果だった。

 そんなセイの知識を共有しているのがユナとリツ。ユナは見たものを忘れないため、知識としてではなく記憶として薬や毒、解毒剤の作り方を覚えた。リツは知識として蓄えた。

 因みにカイは薬草や毒草の見た目の違いすら理解できずに、本人が早々に諦めてしまっている。


 だから、子どもたちが助かったとしてもセイ、ユナ、リツの誰かが生き残らなければゆるやかな死を意味していた。


「カイ。良かったらこれを使って。包丁しか用意できなかったけど、毒を塗っておいたから少し傷つけるだけでも効果があるはずよ」

「毒を塗ったって言ったけど、抜き身のままじゃ危なくないか?」

「でも、何かに包んでいたら、いざと言う時に使えなくて困るでしょ? だから、行動を開始したら包みから出してね」


 そう言って、セイは包丁を包んでいた布を渡した。


「日が落ちたら行動開始よ」


 三人は再び離れ、それぞれの行動開始場所へと向かった。

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