第6話

 次の日、ユナはセイたちとの約束に来ると言っていたにも関わらず来なかった。それは、ヤマタに罰せられたからでも、未だにヤマタと共にいるわけではない。


「ユナが来ない……。まさか──」


 セイの呟きに答えるものはいない。けれど、セイの予感はあたっていた。当然だ。もしも、ヤマタと一つになり裁きから逃れられなくなった時の行動を教えていたのはセイだったのだから。


 セイはカイとリツと共に花の採取のために屋敷から離れると、声を落として二人へと告げた。


「カイ、リツ。ユナが穢れたわ」


 カイは拳を握りしめ、リツは瞳を閉じた。


「きっとユナは、これから少しずつ体内に取り込む。私はそれを阻止したい。協力して欲しいの」

「気持ちは分かるけど、阻止したところでユナが裁かれるのは確実だよ。逃れられやしないんだから。今までの仲間みんなと同じだよ」

「あぁ。そうなって助かった者はいない。選ばれてしまえば、できることは誰か一人でも助かるように願って毒になることだけだ」


 セイの願いにリツとカイは諦めろと言う。けれど、セイは諦めなかった。可能性は低いが、今回は助かる方法がある。


「確かに、確実な方法じゃないわ。けれど、ユナの裁きがある日は、年に一度のお散歩の日じゃない! 予定通り四人で逃げよう!!」


 お散歩の日。それは、ここと村が一年に一度だけ繋がる日。過去に逃げようとした子ども仲間が目の前で惨殺された日でもあった。

 ヤマタの警戒が強まる日でもあるが、逃れられるとしたら、その日だけである。


「全滅の可能性が増すだけだよ。残念だけどユナは諦めるべきだ。逃げるとしてもユナを置いていくべきだと僕は思う」

「ユナには悪いが、俺もリツに賛成だ。俺たちもいつ穢れてもおかしくない年齢になった。来年のお散歩まで裁きを受けないのは無理だ。最初で最後のチャンス、リスクは減らすべきだ」


 昨年のお散歩の日に、遠目ではあるが一緒に鳥居を下見に行ったカイとリツはセイの言葉には頷けなかった。


 鳥居から人が出てきたので、あそこが外の世界と繋がっていることは分かったが、そこまでは距離があるうえに身を隠すものは何もない。

 また、屋敷の外をぐるぐると歩き続ける人のようなもの。それが自分たちを認識した時に敵にならない保証もないのだ。


「それなら、こちらの人数を増やしましょう。お散歩の日に特製の薬の作用を無効化するように調整して混乱を起こすわ。その隙に逃げるのよ」

「それはリスクが高過ぎる。無謀だよ」


 リツの指摘にセイは唇を噛む。無謀なことなどセイが一番理解していた。

 それでもセイは思うのだ。自分たちが逃げた後のみんなのことを。二度と逃げられなくなるであろう、本当の家族のように共に過ごした弟や妹年下の子たちのことを。

 もしかしたら、混乱を起こせば全員は無理だが、逃げられる人数が増えるのではないかと──。


「少し考える時間をちょうだい」

「少しってどのくらいだ? 俺たちには時間がないことなんて分かってるだろ?」

「五日……。ううん、三日……」

「明日まで。明日までなら待つよ」


 リツの言葉にセイは静かに頷いた。無理を言ったのは自身の自覚があったからだ。


 そこからは黙々と花の採取をして屋敷へと戻った。


 そしてその日の夜、ユナがまたヤマタから呼び出された。今までの子たちは週に一度程度だったが、ユナだけは違ったのだ。

 昼間は避けられ、毎晩必ずヤマタのところへと行ってしまう。そのおかげでセイはユナと話しをするチャンスもなく、新しい作戦の提案もできぬまま、一週間が過ぎていった。





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