第5話
最年長のユナは、本来であればもっと早くに穢れていたはずだった。そんな彼女を助けたのはセイだった。
セイはユナの記憶する力を買い、それとなくヤマタがユナに目をつけないように誘導してきたのだ。
だが、遂に順番が回ってきてしまった。
「ヤマタ様、失礼致します」
ユナはヤマタの部屋へと入った。そこには、一組の布団とヤマタだけ。ここで一線を越えてしまったが最後、必ず次の穢れの順番はユナになる。
そのことをセイから聞いて知っていたユナだが、艶やかな笑みを浮かべた。
セイは一線を越えないようにと作戦を立てたが、ユナはそれを
もし、ユナが今回は逃れられた場合、一つ年下のセイが選ばれる可能性が十二分にあるからだ。
それに、一月後はちょうど深夜のお散歩の日だ。これほどのチャンスは二度とないかもしれない。
「ユナ、待っていましたよ。こちらへいらっしゃい」
ヤマタは笑みを浮かべた。自身がどのような姿でユナの瞳に映っているのかも知らないで。
ユナは奥歯を噛み締めてヤマタの元へと向かう。体から八つの獰猛な顔をした蛇が生えているその姿は何度見ても恐ろしいものだった。
途中、着物の裾を踏んでよろけたが、どうにか無事にヤマタのもとへとたどり着く。
「ユナ、顔色が優れませんね。少し震えていますが、調子が悪いのですか?」
ヤマタの人の顔をした部分が心配そうな表情でユナに話しかけたが、周りの蛇の部分は獲物を狙うような目付きでユナを見ている。
「きっ、緊張してしまって……」
声が震えた。だが、今までもそういう子どもが多かったこともあり、神である自身に恐縮してしまっているのだろうとヤマタは捉えた。
「私はあなたの親みたいなものです。そんなに緊張しないで。昔みたいに無邪気な笑顔を見せてください」
「いっいえ。ヤマタ様ほどの素晴らしいお方はいませんもの。幼い頃のように無邪気に笑うだなんて恐れ多くてできません」
「ほぅ……」
ワントーン下がった声にユナはビクリと肩を震わせた。
無邪気に笑えない、その言葉にヤマタはユナが穢れていると判定した。自身の言葉に従おうと努力もしないユナは、もうヤマタにとっての愛し子ではなかったのだ。
「もっ、申し訳ございません」
ユナは自身が失敗したことを瞬時に悟ると、「セイ、ごめん……」と心のなかでセイに何度も謝罪をした。
セイはユナを守るために、他の子どもを犠牲にした。このことでセイが苦しんでいたことをユナは知っていて、だからこそ、絶対にセイの役に立とうと思っていた。
それなのに、このままでは何もできないまま裁きを受けてしまう。それがユナにとって、何よりも辛かった。
「ねぇ、ユナ。あなたはいつからそんなに穢れていたのでしょうね?」
「おっ、お願いします。何でもしますから……」
あと一月生かしてください。という言葉をユナは呑み込んだ。
「何でも、ですか?」
「はい。最後に少しでもお役に立ちたいのです。今までの恩を返したいのです。どうか、その機会を頂けませんか?」
ユナの懇願にヤマタは少し悩んだ末に了承した。一月後に罪を裁くが、それまでを恩返しの時間として
そして、その夜。恩返しとしてユナはヤマタと一つになった。それは、ユナにとって本望だった。
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