第2話


 ヤマタの部屋から辞したセイは、ヤマタの独り言を聞き、小さく安堵の息を吐いた。そして、足音も立てずにその場を去った。



 セイは特別な薬を持って、他の子どもたちのところへと向かう。そのうちのいくつかに自身が作った特製の薬も混ぜて。


「カイ、リツ。ヤマタ様からのお薬の時間よ」


 セイは感情のこもらない声で二人の少年を呼ぶと、特製の薬入りの方を渡す。


「セイ。ヤマタ様はお変わりなかったか? 俺だってヤマタ様にお会いしたいのにセイばっかりいいよなー」

「カイは頭が足りないから、ヤマタ様のお役には立てないよ。精々、力仕事くらいしかできないだろ?」

「リツだって、セイみたいに気が利かないからただの頭でっかちじゃないか。ヤマタ様のお役には立てないぜ」


 カイとリツはお互いをけなしながらも、ヤマタ様の役に立ちたいと主張する。そんな二人に、セイは明日に花の採取に一緒に来て欲しいと伝えた。


「ヤマタ様のお役に立てるなら、何でもするぜ」

「僕もだよ」


 カイとリツは二つ返事で了承した。セイは花の採取にこの二人ともう一人をよく連れていく。そのため、ここまではいつも通りのやりとりだ。



「ロウとリンは罰を受けたわ」


 その言葉にカイとリツは目を見開いた。


「二人同時にか?」

「えぇ、そうよ。残念ながら穢れてしまったそうよ。ヤマタ様も悲しんでおられたわ」

「そっか……」

「私も近いかもしれないわ。だから、それまでに少しでもヤマタ様に頂いたものはお返ししたいわ」

「そうだな。お返ししないと後悔するよな」


 ロウとリンを想い、セイは複雑な表情を浮かべた。

 双子の兄妹だったロウとリン。だからだろうか、ヤマタよりも互いを大事にするふしがあった。


「ヤマタ様よりも優先するものなんてないのにね」

「そうだね」

「あぁ」


 セイは二人と別れると、皆に特別な薬を配りながら、年上の少女のところへと来た。


「ユナ。お薬の時間だよ」


 そう言いながら、ユナにも特製の薬入りのものを渡す。


「明日、花の採取に一緒に来て欲しいんだけど、大丈夫かな?」

「えぇ。大丈夫よ」


 そう言って頷いたユナの表情は暗い。


「今回はロウとリンだったのね。次はあたしになるわ」

「何を言っているの? 次は誰が穢れてしまうのかなんて誰にも分からないわ。それはみんな同じでしょう?」

「ううん。あたしなのよ。だから、絶対に役に立ててね」

「ユナ、穢れてしまったらヤマタ様のお役に立てないわ。だから、私たちはいつまでも穢れないでいなくちゃならないのよ」


 珍しく弱気なユナにセイはなだめるように言う。だが、ユナは小さく頭を振った。


「ヤマタ様から今夜来るように呼ばれているの」

「えっ……」


 それは、穢れへの始まりの合図だ。およそ一月後の真夜中のお散歩の日にユナは裁きを受けることになるだろう。


「特製の薬なしの方を飲めとか言わないでよね」


 そう言って笑うユナの顔色は悪い。特製の薬が入っていると言うことは、まやかしではなく真実が見えてしまう。

 真実は見えない方が良いこともあるのだ。特に今回のような場合は。


「必ずお役に立ってくるわ。もしかしたら、あたしの次はあんたかも知れないもの。あたしよりもセイの方が良かったなんて言わせたくないから」


 そう言いながら、ユナはセイの特製の薬入りの方を飲み干した。それは、ヤマタの本当の姿と対峙することを意味していた。


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