第1話

 

 深夜のお散歩で連れてこられた赤ん坊は、みんな神様のところにいる。神様は真っ白な心の赤ん坊が大好きで、自分の子どもとして育てるのだ。

 一人の母親と子どもと同じ日に来た赤ん坊も例にれず神様に育てられ、『セイ』と名付けられた。



 セイが神様のもとに来てから十六年という年月が過ぎた。現在、神様のもとにいる子どもは赤ん坊も含めて三十人ほど。みんな神様にとっては可愛い子どもであり、大切な存在であった。


 そんな可愛い子どもたちのために神様は特別な薬を用意する。白い美しい花が咲くそれの葉を潰し、特有の苦味を抑えるために甘い密と混ぜる。そうするとここでは甘味が少ないこともあってか、特別な薬を子どもたちは喜んで飲むのだ。


「セイ、薬を運ぶのを手伝ってくださいませんか?」


 真っ白な髪を一つに束ね、二十代半ばくらいの優男のような風貌の神様は、子どもたちの中でも年上となった少女を呼んだ。

 セイは呼ばれるとすぐに姿を現し、神様へと小さく頭を下げた。


「畏まりました。そろそろ花の採取は入り用でしょうか?」


 セイは静かな声で聞いた。その声に感情はなく、淡々としたものであったが神様は満足そうに頷く。


「そうですね。何人かの子どもたちを連れて明日にでも行ってきてくれますか? セイは本当に気が利くので助かります」

「勿体ないお言葉にございます。ヤマタ様のお力に微力ながらもなれることほど、セイにとって嬉しいことはございません」


 ヤマタと呼ばれた神様にとって百点満点の言葉をセイは紡ぐ。


 正直、セイは特別美しい訳でもなく、愛嬌がある訳でもない。最初はヤマタにとっては特別な価値のある子どもではなかった。けれど、気が利き、かゆいところに手が届くような存在のセイを徐々に重宝するようになったのである。


 ヤマタは、子どもたちへの伝令や取りまとめる役目をセイへと与えた。すると、報告はきちんとあがり、聞けば子どもたちの動向も迷いなく答えてくれる。

 まさに、ヤマタの求めていた便利な人材にセイは成長した。



「セイ。昨夜、二人の愛し子は罪を犯しけがれてしまいました。よってさばきを下しました」


 ヤマタの言葉にセイは痛ましい表情を浮かべ、一粒の涙を溢す。


「ヤマタ様、申し訳ございません。セイの落ち度です。ヤマタ様のお心をきちんと伝えきれなかったセイにどうか罰をお与えください」

「いいえ。あなたには何のとがもありませんよ。自身を責めてはなりません」


 ヤマタは下を向いてしまっていたセイの頭を優しく撫でる。本当にセイは自分好みに成長したと笑みを携えて。

 何度も何度も撫でていると、セイの肩で切り揃えられた艶やかな黒髪が一本抜けた。それをヤマタは握ると、肩を震わせるセイへと言葉を重ねる。


「心が穢れないように、真っ白な心のままでいられるように。そう願って、慈しんで育ててきました。残念ながら、ロウとリンは穢れてしまいましたが、穢れた罪を償うことで来世では美しくいられるようにと裁きは行われたのです。二人もきっと分かってくれているはずです」

「はい。ヤマタ様」

「あまりにセイが泣いていると二人が浮かばれませんよ。さぁ、いつもの笑顔を見せてください」


 セイは涙を手の甲で拭うと、眉を下げて笑った。それは懸命に作った笑みではあったが、ヤマタは満足した。


 ヤマタは、セイに特別な薬を人数分渡すと下がらせた。下がらせた後、手に握った一本の黒髪を食べる。


「あぁ、食べてしまいたい。だが、セイがいなくなると不便なのも事実」


 ヤマタはセイを食べるか否かを少し逡巡しゅんじゅんしたが、失った不利益の方が大きいと結論付けた。

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