第3話「ひとりぼっちの月」
「あ、タクヤさん!お疲れ様です、勉強会はどうでしたか?」
俺が図書室から教室に戻ると、宣言通りユキは教室に帰ってきており窓側の席に座っていた。
「あぁ、勉強会とは名ばかりのおしゃべり会になってたよ」
俺はあらためて目的とはかけ離れた時間だったことを思い出し、笑みを浮かべながらユキの隣に座る。
「あはは、ハルカさんが張り切って転入生さんとお話しているところが目に浮かびます」
「ご想像通り、あの先生は急に小テスト出すよーだとか、この学校は文化祭に力を入れてるんだとかそれはもう張り切って秋野さんに紹介してたよ」
「タクヤさんは転入生さん…アキノさんと仲良くなれそうですか?」
「ま、まぁ秋野さんは会話が別に嫌いとかじゃなさそうだし普通に仲良くなれる…んじゃないか?」
「タクヤさん、ちゃんと話しかけられますかー?」
「…もちろん」
「ほんとですかー?」
ユキがニヤニヤしながら人差し指でつついてくる。
「鬱陶しい!あー、そうだ。ユキは『図書室の呪われた本』っていう噂知ってるか?」
「いえ、聞いたことありませんね」
「そうか…なんでも、昔から言われてるこの学校の七不思議らしくてな。図書室で神隠しが起こるんだと」
「神隠し…もしかして『まっさら紙の呪い』のことでしょうか」
「?、そういえば遥が昔は違う呼び方だったって言ってたな…やっぱ有名なのか?」
「はい…私のときは何も書かれていないまっさらな紙に魂が吸い込まれ、消えてしまう…というものでしたね」
「なるほどな、ていうか昔って何年前の話なんだ?」
「そうですね…って!タクヤさん!女性になんてことを聞くんですか!もうっ!」
ユキはどこか暗い雰囲気の話ぶりから一転、いつもの明るいテンションでポカポカ叩いてくる。
「(やっぱりユキと話すのは…楽しいな)」
「明日も放課後は教室に戻ってくるのか?」
「はい。学校の外には出られない、いわゆる地縛霊というやつなので放課後はここに居ますよ」
「そうか」
「なんですかー?ユキお姉さんと会えない時間が寂しかったんですかー?」
「まぁ…じゃあそろそろ帰るよ」
「!?、今まぁって言いました?タクヤさんがついにデレました!」
「っ!、もう話は終わりだ!じゃあな!」
「はい、また放課後に」
ニコニコのユキを背に俺は足早に教室を出る。
「(ユキにも遥にも話下手をいじられたな…せっかく秋野さんは隣の席だし、明日あいさつからはじめるか…!)」
俺は決意新たに明日を迎える。
翌日、登校すると秋野さんはもう席に座っていた。
「お、おはよう秋野さん。昨日の今日だけど学校はどう?」
秋野さんはゆっくりとこっちを見つめたかと思うと、目線を外して話しはじめる。
「……おはようございます、昨日はありがとうございました。朝も迷わず来れたので問題ないです」
「迷わずって、秋野さん方向音痴だったりするの?」
「……いえ、そういう訳では…」
「そ、そっか…まぁ迷ったり遅刻とかがなければ朝なんて何も問題ないか」
「……はい」
「(会話むっずーー。これは俺が下手だからなのか?)」
俺が会話に悩んでいると、遥と翔平が教室に入ってきた。
「あ!秋野さんおはよう!」
「2人ともおっす!」
「……おはようございます」
「拓哉もおはよ!あれ、なんか話してた?」
「いや、俺もあいさつしたぐらいだけど…」
「そっか。拓哉ー、そこは粋な会話で秋野さんを楽しませないとー」
「なんだよ粋な会話って」
「それはもちろん秋野さんを爆笑させる…」
遥が話をはじめだしたその時、秋野さんが口を開いた。
「あ、あのっ……少しお手洗いに行ってきます。よろしければここに座ってお話しても大丈夫ですので」
秋野さんはお辞儀しながら立ちあがり、教室から出て行ってしまう。
「…避けられちゃた?」
「…あぁ、まぁ…」
「うち何か嫌なこと言っちゃってたかな?」
「分からない…今思えば俺が挨拶した時も距離を置かれていたのか…?」
俺と遥が不安になっていると翔平が励ましてくれる。
「大丈夫だ!秋野さんは2人を嫌ってなんかないって!」
「どちらかといえば、何か遠慮してるように俺は感じたぞ」
「(遠慮、か…翔平は俺らのこともそうだが、周りをよく見て考えてくれているんだな)」
俺は翔平に元気をもらった気持ちになり、もう一度秋野さんと話してみることに決める。
「よし!機会があれば秋野さんに失礼ない範囲で色々聞いてみるよ」
「うん…お願い」
「拓哉はやる時はやる男だからな!任せたぜ」
幼馴染2人と約束し、解散したところで秋野さんがこそっと戻ってきた。
「(もうホームルームがはじまるし話すのは難しいな…まぁいくらでも機会はあるだろう)」
しかし時はあっという間に流れ、もう昼休みになってしまっていた。
「(秋野さん、話しかけようとするとすぐに席を外してしまう…やっぱり避けられてるよな…)」
「(なおさらこのままって訳にはいかないな、少し探してみるか)」
俺はいくつかの場所を探し、そして最後の候補である図書室に行ってみることにした。
「(居た…あくまでも自然に話しかける…)」
秋野さんは図書室の一番奥で本を開いているようだ。
「あ、秋野さん。秋野さんも何か本を探してるの?」
「……水原さん…いえ」
秋野さんはまたすぐに立ち去ろうとする。
「待って!」
「(ここは少し強引にでも踏み込んでみるか)」
「秋野さん、昨日から俺たちのこと避けてたり…する?何か嫌なことをしてたら謝りたい」
「そんなっ、違います…ただ、みなさんの邪魔に…」
「邪魔?なんのこと?」
「……」
秋野さんが黙ってしまった。
「(やばいっ、こんなときこそ何か粋な会話を!)」
「そ、そっか怒ってた訳じゃないんだね。よかった…そういえば本読んでたよね、それ面白いの?」
「……これですか?これは先程見つけて、不思議な本だなぁと思って見ていただけで」
「へ、へぇーちょっと見てもいい?」
「……はい。ただしっかりとした装丁の本なのですが、中は真っ白で文字も何も書いていませんが」
「え?何も書いてなくて真っ白って…」
秋野さんが手にしていたのは、昨日ユキから聞いた特徴と全く一緒の本だった。
おとぎのヒロインは君に探してほしい 星宮ヤマト @yama-yama17
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。おとぎのヒロインは君に探してほしいの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます