第2話「不思議はいつもそばに」

俺はある程度のことなら驚かない。


美人な転入生と出会っても。


そして、美人な幽霊が隣にいても。


「はわわ、転入生さんがこちらにきますー」


ユキがわたわたと可愛らしく動揺している。


「タクヤさん、ユキはこの席から離れてしまうのでもう居眠りを起こしてあげられませんからね?しっかり勉強するんですよ?」


「放課後はここに戻ってくるので、お時間があればぜひお話しましょうね。では!」


俺は子ども扱いされ、少しムッとしながらもユキに伝わるようゆっくりと頷いた。


「……よろしくお願いします」


俺の真横に到着した転入生、秋野さんは無表情ながらも少し緊張気味に挨拶してくれた。


「はい、よろしくお願いします…」


学校でユキ、翔平、遥以外とはめったに話さないため、こちらも緊張してしまう。


「……」


「…」


お互いそれ以上会話はなく、話しかけるタイミングを完全に失ってしまった。


「(俺ってここまで会話が下手だったのか…)」


かるく自己嫌悪におちいっているなか、ホームルームはあっという間に終わる。


クラスの美人転入生に向ける興味は昼休みまで続き、秋野さんの席の周りに人が集まっていた。


「秋野さんはどこから引っ越して来たの?」


「すごい綺麗な黒髪…お人形さんみたい…」


「ほんとオシャレなボブだよねーどこでカットしてもらってるのー?」


「……」


「はいはーい。秋野さんが困ってるでしょ!」


遥が質問攻めにあっている秋野さんの助けに入り、その場をまとめた。


「まったく、ごめんね秋野さん。まだ慣れないことだらけだと思うけど困ったらなんでも聞いてね」


「……はい」


秋野さんの周りに集まっていたクラスメイト達はごめんねーと明るく謝まりながら解散していく。


「そうだ!放課後に勉強会やるんだけどよかったら秋野さんもどう?」


「……勉強会ですか?」


「うん!この学校のこととか色々教えたいな!」


「……そうですね、急に参加しても他の人は困らないでしょうか…」


「全然大丈夫!ねぇ?」


遥は急に話題をこちらに振ってくる。


「あ、あぁ。いいんじゃないか?翔平も大丈夫だよな?」


「もちろんだぜ!」


秋野さんが心配していた他の人にあたる俺らの了承を聞き、遥は秋野さんを再度誘う。


「勉強会はうちを含めた3人だけだったし、見ての通り大歓迎だよ!」


「……ありがとうございます。では、せっかくなのでご一緒したいです…」


「よかったー!実は余計なお世話だったかなーとかちょっと不安だったんだ」


「まぁ、結果3対1みたいな構図になってたから嫌でも断りづらかったんじゃないか?」


「嘘!?」


俺は感じたことを口にしただけだが、思いのほか遥が動揺してしまった。


「いえ、うれしいです。……皆さん仲が良いんですね」


「幼馴染だからな!」


翔平がさわやかに返事したところで昼休みの終わりを告げるチャイムがなる。 


この学校の図書室はそこまで厳しくなく、雑談程度なら怒られることはない。


使用する生徒も少なく放課後に使っているのは俺らだけだった。


「まぁ、一通りの説明はこのくらいかな?」


「ありがとうございます。とても参考になります」


勉強会はすっかり遥が司会の学校説明会になっており、秋野さんもどことなく馴染んできた気もする。


「(感情を表すのが苦手なだけで、人と話すこと自体は嫌いじゃないのかな)」


「うーん、あとなんか面白いことは…」


「面白いことって…もう雑談だな」


「いいじゃん、せっかく秋野さんとゆっくり話す機会ができたんだから!」 


勉強という文字は消え、遥は完全におしゃべりモードになっていた。


「そうだ!この学校にも七不思議があるんだけど、ここならではの噂が一つあるの!」


「…ご当地七不思議ということですか?」


「お、秋野さんこういう話好きな感じー?」


「…いえ…」


秋野さんが食いついたのがうれしいらしく、遥はドヤ顔で発表する。


「七不思議の一つ、その名も『図書室の呪われた本』!」


俺は思わず口をはさむ。


「図書室のって、ここ七不思議の一つになってるのかよ!」


「あれ?拓哉たちも知らないの?この噂はねー…」


俺のツッコミでさらに火がついたらしく、意気揚々と話を続ける。


「誰もいない時間に、図書室で呪われた本を見ちゃうとその人は神隠しにあったように消えちゃうんだって!」


「内容は他にも色々言われてて、本に生気を奪われるーとか、感情が奪われるーとか呪いの種類はいっぱい!」


「何回か呼び方も変わってるらしいけど、昔っから噂されてるんだよー」


「すごいな!消えたり、奪われたり、大変だ」


翔平が七不思議特有のぶっとんだ内容に感心しているかたわらで、秋野さんも何かを考えているようだった。


「…感情が、奪われる…」


「まぁ所詮、噂なんだけどねー。ホントに急に消えたりしたら大騒ぎだよ」


「あ、でも拓哉が消えちゃっても気づけるのはうちらだけかもね」


遥がニヤニヤしながらいじってくる。


「うるせー、他にも友だちぐらい…いるっつーの」


「えー、見たことないんですけど」


「拓哉。なんかあったら俺がいるからな?」


「おい翔平、そんな真面目なトーンで励ますな!」


長年の付き合いだからこそ嫌ではないが、友だちが少ないことを突き付けられるのは少々へこむ。


「……ほんとに…皆さんは仲が良いんですね…」


秋野さんは俺らのやりとりをどこか遠い目をして見ていた気がする。


「……本日はありがとうございました。みなさんに心配をかけないよう頑張っていきたいと思います」


「そんなそんな!前も言ったけど困ったらいつでも頼ってね!」


「……はい、ではお先に失礼します」


秋野さんは俺らに一礼し、ひと足先に帰ってしまった。


「じゃあうちらもここで解散しよっか」


「そうだな!」


「あぁ、また明日」


「(秋野さん…なんか最後、妙に他人行儀だったような…気のせいか?)」


俺はほんの少しの不安を感じながら帰る準備をするために教室へ戻る…

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