第1話「俺の学園生活はふたりの友だちと…」

「タクヤさん、起きてください。タクヤさん」


「…」


「タクヤさんってば…起きないといたずらしちゃいますよ」


「…」


俺は左隣からの甘い言葉?を無視しながら体を起こし、1番後ろの席からボーッと黒板を眺める。


「あ、起きましたね。ドキドキして起きたんですか?」


窓を背に、同年代の女の子が綺麗な青い瞳で笑いかけてくる。


「…なんですか?マジマジとこちらを見つめて。照れてしまいます」


俺は無言でノートの左端にメッセージを書く。


「ノートに文字?…まさかっ、面倒見の良いこのユキお姉さんに告白ですか!?キャー!…ええと、し・ず・か・に・しろ?」


「もう!タクヤさんってば、せっかく起こしてあげたお友達に対してお礼もなく命令なんてっ!冷たいです!」


サラサラの白く長い髪をなびかせ、ユキがぷんすか頬を膨らませてふてくされる。


「ここ、テストに出るからなー、期末も近いからしっかり復習しとけよー」


ユキと会話?をしている内に、教師のありがたい助言をもって授業が終わった。


「よし、拓哉っ。昼飯にしよーぜ」 


昼休みに入るやいなや、すぐ前の席から声がかかる。


「おー。というか、授業終わって即昼飯の誘いって…やっぱサッカー部の朝練があると腹ペコか?翔平」


「そーなんよー、もう腹が減りすぎて授業に集中できないのなんの」


こう言いながらも、テストの成績順位が廊下に張り出されるといつも上位に「堀田翔平」の文字があるのだからこいつはホントに努力家なのだろう。


「あれー、拓哉の席に集まってご飯食べるのー?じゃあうちもご一緒しよーかな。仲良く幼馴染みんなで食べましょ」


「おっ、今日は遥も一緒か!来い来い!」


翔平が遥を歓迎し、食事がはじまった。


「てか、拓哉ってば英語の時間ほぼ寝てたっしょ。

姿勢正しく真面目に授業受けてた翔平の背中にちょうど隠れて先生にギリバレてなかったぽいけど」


「ホントっ、タクヤさんってば授業始まって5分も経たずに眠る姿勢に入ってましたよ」


「テストも近いし、みんなで勉強会とかする?うちも今回英語やばそーだし」


「それは良い考えですね!みなさんと一緒なら勉強も捗り、集中できますよ!」


ユキが遥の言葉にすかさず乗っかり、キラキラした目でこちらに訴えかけてくる。


「確かにそれいいな!ちょうど明日は職員会議で放課後の部活はないしな。つか、拓也ー。お前だけ寝るなよ、ずるいぞ」


「すまんな、前にいい壁があって。というか、遥。自分こそしっかり前見て授業受けろよ」


俺は言われっぱなしもなんとなく癪だったため、遥に少し意地悪をする。


「なんで同じ最後列の俺がずっと寝てたのを知ってるのやら。それともなんか別のもんでも見つめてたのか?」


「うっさい!」


遥がちらちら翔平を気にしながら俺を睨んでくる。


「やっぱりハルカさんってショウヘイさんのことが好きなんでしょうか」


ユキが口に手を添え、内緒話のポーズをしながら普通のトーンで話しかけてくる。


「もう、ごちそうさまっ!ダイエット中なの忘れてた!走ってくる!」


「勉強会は明日の放課後、図書室でやるからねっ!」


遥が半ば強引に予定を取り付け、綺麗に染まった金髪のポニーテールをその名の通り馬のしっぽのように振り乱しながら去って行った。


「なぁ、拓哉。…食後すぐに走るダイエットってあるのかな?」


一連の流れでの翔平の心情は定かではないが、疑問に関しては純粋に口にしているのだろうな。


「(頑張れ、遥。俺は応援するぞ…)」


心の中で恋する乙女に激励を送っているうちに、昼食はお開きとなった。


午後の睡眠授業もそつなくこなし、あっという間に放課後に突入する。


「タクヤさんは帰らないんですか?」


教室には俺とユキ以外誰もいなくなっていた。


「なぜか今すごい頭がスッキリしていてな。せっかくだから自主的に勉強をしてるんだ」


「当たり前です!授業もしっかり受ければタクヤさんならテストも問題ないでしょうに…ほんと不思議な人です」


「その言葉はそのまま返すよ」


勉強も区切りがつき、帰る支度をはじめる


「ここまで復習できたら、明日の勉強会で遥に怒られることはないな」


「ハルカさんはいいお母さんになりそうですね」


「ほんとそのとおりだ。俺はそろそろ帰るよ、また明日」


「はい、また明日」


俺の学園生活は、決して多くはないが大事な友だちに囲まれ、十分充実していると思う。


そんな日常がだらだらと続くと思っていたのだが…


翌日、大きな変化が起きた。


「今日から転入生がこのクラスに加わる。秋野美月さんだ」


「……よろしく、お願いします…」


担任に紹介を受けた、透き通った紅色の瞳の彼女は無表情に挨拶をした。


「秋野の席だが…一番後ろの窓側、いつも眠そうにしてる水原拓哉の隣りが空いてるからそこに座ってくれ」


担任の生徒いじりを軽い会釈で受け流し、秋野美月は迷いなくユキの座る席へと向かってくる…

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