第5話

 1週間後、僕は東京に戻った。バイト情報誌で仕事を探すとすぐに働いた。

 東京にきてからは大学よりは働いている時間の方が長く学生よりは社会人の意識が強く、大学だけに通っている輩が時折妬ましく思うこともあった。しかし働きの中で学ぶことも多く、僕はむしろこちらの方が身につく学びだと自負していた。学業と労働は決して楽ではなかったが若さで何とかこなし4年も終わろうとしていた、まわりの学生たちは就活だなんだかんだと、ざわざわしていたが僕はずっと社会とかかわってきたので特別なこととは思わなかった。しかし僕も卒業だ。とりあえず就職だ。僕は前から目を付けていた何社かをあたってみた。バイトとの関わりもあったのですんなりと内定をもらうことができた。外車を中心とした商社であり程々気に入っていた。

 そんな折実家の母から電話があった。「実はね、お父さんがガンになってしまったの、それでね余命も告げられてしまったわ、あと3ヵ月くらいだというのね」僕は突然のことに頭が真っ白になった、自分の父はずーと丈夫で死ぬなんてのはずっと先の事だと思っていた、何とか冷静に立ち直ろうと深呼吸をして母の電話を切った。

 僕はこれからの事をもう一度考え直さなければと思い母とも相談をした。母の希望は1人になってしまうので帰ってきてほしいと。僕は田舎での就職は全く考えていなかったのであまりにも想定外なことにただ脱力感に襲われてしまった。そんな僕の心境を母は察したのかいくつかの就職先の提案をしてくれた。

 僕は母の提案でとりあえずというあきらめに似た気持ちで地元の印刷会社に就職を決めた。

中小企業であるが地元では知名度と信頼度があり安定企業でもあった。最近では出版事業も手掛け、僕には自由な社風を与えてくれると云い、僕も徐々に本気度が増してきそうだった。


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