第33話

☆☆☆


家に帰ってきたマサシはリビングにいる母親に声をかけることもなく、自分の部屋に駆け上がった。



鏡を見るのも嫌で帽子を深くかぶり、マスクを付けて顔を隠した。



唇の奥から除く歯は歯並びが悪く、そのため虫歯も沢山あるみたいだ。



あいつらのせいだ。



あいつらのせいで俺はこんな顔になったんだ。



人気者でカッコイイくせに、俺の顔を奪うなんて信じられない!



以前よりもずっと醜くなった容姿に、ベッドの中に潜り込む。



もう誰とも会いたくない。



一週間もこのままだなんて死んでしまいたくなる。



「マサシ、お友達が来たわよ」



そんな母親の声も聞こえないくらいに心が沈み込んでいた。



「友達……?」



そっと布団の中から顔を出す。



自分に友達なんていない。



いるのは嫌なクラスメートたちだけだ。



「マサシ、入っていいか?」



その声はタカヒロのものでマサシは再び布団の中に頭まで潜り込んだ。



どうしてタカヒロがここに来るんだ?



才能はもう返したのに、まだ俺のことを懲らしめに来たのか!?



布団の中でガタガタと震えているとドアが開く音が聞こえてきた。



「マサシ、顔を見せてよ」



その声はチナだ。



タカヒロにチナ。



ということはヒデアキとノリコだって一緒かもしれない。



みんなで俺のことを攻める気だ!



ギュッと掛け布団を握りしめた時、それが強引に剥ぎ取られた。



眩しさに目を閉じて、キャップを深くかぶり直す。



「いろいろな物を取られたんだね」



ノリコの声が思ったよりも穏やかで、マサシはそっと両目を開いた。



4人がベッドの周りに立っていて、こちらを見下ろしている。



マサシは目を合わせることができなくて、うつ伏せになった。



「なんだよ、俺のことを笑いに来たのか!?」



「違うそうじゃない。いい加減気がついたかと思ってきたんだ」



そう言ったのはヒデアキだ。



「お前、3つも才能を奪われたんだぞ? それがどういう意味かわかるか?」



ヒデアキの言葉にマサシは左右に首を振った。



自分のなけなしのいいところを全部奪われたとしか思えない。



こんな仕打ちは耐えられない。



「マサシには、最初からそれだけの才能があったってことだ」



タカヒロが呆れた声色で言った。



才能……?



マサシは一瞬大きく目を見開く。



いや、騙されるもんか。



俺には才能なんてない。



才能があれば、根暗マサシだなんて陰口を叩かれたりしてないはずだ。



「嘘つくなよ!」



「嘘じゃない。才能はあったんだ。それなのに気がついて来なかっただけなんだ」



才能にあふれているタカヒロたちにそんなことを言われても納得できるわけがなかった。



「私達みんな、才能を伸ばすために努力をしているのよ。なにもせずにここまでできるようになったわけじゃないの」



チナが言う。



「そうだよ、だからマサシだってこれから努力をすればいいんじゃない」



ノリコが言う。



「俺になんの努力をしろっていうんだよ」



勉強もスポーツもできない。



ないないづくしの自分だ。



「見た目だよ」



言ったのはヒデアキだった。



驚いて思わず顔をあげてしまった。



ヒデアキの真剣な表情が見えてドキリとする。



本気で言ってるのか?



「お前に言われると嘘だとしか思えない」



「嘘なんかじゃない。背が高くてカッコイイ見た目のヤツだけがモデルをやっているわけじゃないんだ。お前みたいに少し背が低めで幼い顔立ちをしているヤツも沢山いる」



背が低いことも、幼い顔立ちなこともただのコンプレックスだった。



「モデルになれとまでは言わないけど、それを生かして前向きに行きていくことは簡単だ。今すぐにでもできる」



惑わされちゃいけない。



俺にはいいところなんてなにもない。



だから今までずっと一人ぼっちだったんだ。



「少なくても、いいと思ったからゲームで奪い取られたんだ。そうだろ?」



タカヒロの声に胸がトクンッと高鳴った。



いいと思ったから、奪われた……。



「み、みんなもそう思ってたのか? 俺の顔が、いいって?」



「そうだね。でも前髪が長すぎてちょっとわかりにくいかな」



「うん。もう少しスッキリさせれば印象は代わると思う」



女子2人にそんな風に言われると、頬が熱くなってしまう。



マサシは照れた顔を見られたくなくて、また布団に突っ伏した。



「でも、もう奪われたし」



「一週間したら戻ってくる。一週間なんてあっという間だ」



タカヒロにそう言われて、マサシは情けなさと恥ずかしさで少しだけ涙が出た。



自分はみんなのことを騙して才能を奪い取ったのに、こんなに気にしてくれるなんて。



「……みんな、ごめん」



マサシは突っ伏したっまくぐもった声でそう言ったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る