第32話

サッカー部のエースであるタカヒロの不調については他のクラスでも有名になっていたことだったようだ。



それは予想外でマサシはまた舌打ちをした。



早く勝負を付けてとっとと才能を奪って終わらせよう。



そう思ってポケットの中のネリケシを出したときだった。



「あたりだ!」



と1人が声をあげたのだ。



見るとサイコロの出た目は5。



マス目を確認すると5マス目があたりになっている。



「嘘だろ」



思わず呟く。



自分より先にあたりに止まるヤツがいることを想定していなかった。



「じゃあどうしようかな。お前、なにか才能ある?」



マサシはそう聞かれて左右に首を振った。



幸いなことに自分にはなんの才能もない。



だから誰かから奪われるものだってないのだ。



そう思って安心していたとき「いや、やっぱりお前からもうらものがあるみたいだな」と言われて目を見開いた。



「俺から何を奪っても意味ないよ。勉強もできないし、スポーツも苦手。それにリーダーシップもないし見た目もよくない」



自分で説明しながらどんどん落ち込んでいってしまう。



だけどこれが現実だ。



だからこそ、このゲームが役立っているんだから。



しかし男子生徒は左右に首を振った。



「お前、自分の魅力に気がついてないんだな」



それは憐れむような声だった。



「え?」



マサシが首をかしげるとほぼ同時に「俺はマサシから綺麗な肌を奪う」と言われていた。



ハッと息を飲んで自分の頬に触れるといくつかのニキビ跡ができていた。



更におでこには新しいニキビが2つ。



代わりに男子生徒の顔はツルリとした卵のような肌に変わっていた。



「おぉ、前よりもずっと男前になったじゃん」



「へへっ。ずっとニキビに悩んでたから、丁度よかった。サンキューな」



嘘だろ、そんな……。



一瞬息を飲んだマサシだったがすぐに気を取り直した。



奪われたのはたかが肌だ。



そんなのどうってことはない。



少なくても勉強やスポーツみたいに、将来の夢を目指すなにかではないんだから。



次に自分の番が来た時にあたりに止まればいいだけだ。



そうすれば肌だって奪い返すことができる。



そう、思っていたのだけれど……。



次にサイコロを振った生徒も、まさかのあたりに止まったのだ。



「やりぃ! 俺もあたり!」



両手をあげて喜んでいる男子生徒を見て、マサシはすぐにサイコロを確認した。



こんなに調子よくあたりに止まるなんておかしい。



細工がされているはずだ。



そう思って念入りに調べてみたが、なにも見つけられない。



ネリケシを付けたあとの粘つきも感じられなかった。



「じゃあ俺はマサシから髪質を奪う!」



そう宣言された瞬間、マサシの髪の毛は強い天然パーマに変わっていた。



「うおぉ~、すっげーサラサラだ!」



マサシの髪質を奪い取った生徒はサラリとした髪の毛を手に入れて大喜びしている。



おかしい。



こんなの絶対におかしい!



ダラダラと冷や汗が背中に流れていき、止めることができない。



その次にサイコロを回した男子生徒もまたあたりに止まり、今度はマサシから綺麗な歯並びを奪い取った。



「あ~あ、今日は楽しかったな。この才能は一週間すれば自然と元に戻るって書いてあったから、それまで大切に使わせてもらうよ」



マサシから様々な才能を奪い取った3人の生徒たちは、教室を後にする。



マサシは愕然として椅子に座り込み、ボードゲームを見つめた。



こんなのおかしい、絶対にいかさまだ!



「待てよ! ゲームはまだ終わってないだろ!」



教室を出ようとしていた3人が足を止め、振り返る。



「いいのか? ゲームを続ければその分お前の才能が奪われるんだぞ」



「そ、そんなことない! 俺は自分の才能を奪い返す!」



「へぇ、本当にできるのか?」



3人はクスクスと含み笑いを浮かべる。



その笑顔を見てマサシはまた冷や汗が吹き出した。



「やっぱり、イカサマをしてたんだろ!」



「だからなんだよ? お前だってやってたんだろ?」



その言葉に絶句してしまう。



この3人は最初からマサシのやっていたことを見抜いていたのだ。



その上でゲームに参加してきたのだ!



「悪いな。俺たちタカヒロから相談受けてたんだよ。それでお前があいつらとゲームをしているのを観察させてもらってたんだ。だからお前がどうやってあたりマスに止まってたのかもわかってた」



男子生徒はそう言うとポケットからネリケシを取り出して、マサシの前に放り投げたのだった。

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